原ファシズムの特徴1 伝統崇拝

以下、『永遠のファシズム』より写経。

 1 原ファシズムの第一の特徴は、<伝統崇拝>です。伝統主義はファシズムより古い起源をもっています。フランス革命後の反革命カトリック思想に典型的なだけでなく、古典ギリシアの合理主義に対する反動として、後期ヘレニズム文明において生まれたものなのです。
(中略:以下、後期ヘレニズム文明について)
 このあたらしい文化は<混合主義>的にならざるをえませんでした。ここで言う<混合主義>とは、辞書が示すような、さまざまに異なる信仰や宗礼の形態の合体を意味するだけではありません。そうした合体は「さまざまな矛盾を許容しなければならない」のです。元々のメッセージはどれもすべて知恵の萌芽をはらんでいるものですから、それぞれに異なる矛盾した事柄を言っていると思えるとしても、どれもが当初の真実をなにがしか、寓意的に暗示しているにすぎません。
 結論からいえば、「知の発展はありえない」のです。真実はすでに紛れようもないかたちで告げられているのですから、わたしたちにできることは、その謎めいたメッセージを解釈しつづけることだけなのです。(引用者注:と原ファシズムは考える)ファシズム運動の一つひとつの目録を点検し、そこから主要な伝統主義思想家を洗い出せばすむことです。ナチスグノーシス主義は、伝統主義と混合主義とオカルティズムの諸要素によって育まれたものです。イタリア新右翼のもっとも重要な理論的起源であるユリウス・エヴォラは、グラールの聖杯伝説とシオンの賢者の議定書を、錬金術神聖ローマ帝国とを混ぜ合わせました。イタリア右翼の一部が最近、目録を拡充し、ド=メーストルにゲノン、そしてグラムシを加えることで、度量の大きさをしめそうとしたという事実自体、混合主義の明白な証明です。
 ちょっと興味をもって書架をながめてみれば、アメリカの書店では「ニュー・エイジ(New Age)」と書かれたコーナーに、聖アウグスティヌスまでが並んでいることに気づくでしょう。この聖アウグスティヌスなる人物は、わたしの知るかぎり、ファシストではありませんでした。しかし、聖アウグスティヌスストーンヘンジがいっしょに並んでいること自体、これこそが原ファシズムの兆候なのです。
エーコ、前掲書、p48-50

なんでもありで、自分に都合のいいところをつまみ食い。批判されると、あの人もこう言っている、この文献にもこう書いてある、君はこれを否定できるのか、と言い張り、矛盾を指摘されても、解釈の問題だ、と逃げる。そんな感じだろうか。