隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)経験談

昨年手術をした隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)のその後について、コメント欄にお尋ねをいただいた。
思えば、大学病院での広範囲切除手術からちょうど一年である。
記念に、関連の日記をここにまとめておく。
あくまで私個人の経験にすぎないが、同病の方の参考になれば幸いである。

大きすぎるできもの

正確には何年前からだったかは覚えていない。十年近くなるのではないだろうか。右胸の乳首の上に、虫さされのあとのようなものができた。少しかゆかったので虫さされだと思い込んだ。
それが大きなほくろのようになり、やがていぼのように盛り上がり、さわると内側にしこりのようなものができているのに気がついて、強くふれると痛く感じた。それでもさらに数年も放っておいて、見た目もかなり大きく、広さは五百円玉大の、やや盛り上がったあざのようになって、中身の重みで表面が少し垂れ下がってきてから、さすがに気になってかかりつけの開業医に診てもらった。
いつもならテキパキと診断するベテランの医師が、しばらく考え込んで、「うーん、これはなんだろう。ただのできものではないような気もするので、念のため大きな病院で精密検査をしてもらってください」と総合病院に紹介状を書いてくれた。
これが去年の四月初めのこと。

男の乳がん

紹介された病院も、自宅の近所にあったので数日後にさっそく出かけた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150407/1428419478
この段階ではまだ隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)という診断ではなく、男性の乳がんの疑いで検査を受けた。家庭内で冗談で言っていたことが医師の口から出て来たので驚いた。実際にあることだそうだ。
幸い乳がんではないとの結果が出て、良性の腫瘍ということで切除手術を受けることになった。
ただし、医師の言う「良性の腫瘍」という言い回しは日常の語感とは異なり、いわゆる「がん」ではないという程度のニュアンスで、放っておいてもよいということではないらしい。
実は担当医は別の病気も疑っていて、「切り取った患部を病理検査に出しますから」と念を押していた。

最初の手術

最初の腫瘍の切除は局所麻酔で行われたので、一部始終を書き留めてある。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150424/1429860026
この段階でもかなり気持ちに余裕があって、『ブラックジャック』を読んだりしている。だが、検査から手術までの半月の間に腫瘍が大きくなっていることに気づいた医師が、この腫瘍の検査結果を専門医と相談してくれた。

診断

手術から一カ月近く経って、隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)という診断が出た。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150519/1432045873
初めて聞いた病名で、一般人向けの啓蒙書もなく、ずいぶん不安に思ったことを思い出した。
上の日記にも書いているが、同病の先輩のブログ「隆起性皮膚線維肉腫なんだって」がいちばんわかりやすい。
「隆起性皮膚線維肉腫なんだって」→http://dfsp.exblog.jp/
私の日記では二回目の手術はしなくて済みそうだと書いているが、実際にはDFSPさん同様にこの後、広範囲切除手術を受けることになった。これは隆起性皮膚線維肉腫という病気の診断が難しく、結局、患部を切り取って検査してみなければわからないことが多いからなのだろう。

広範囲切除手術へ

診断からさらに一カ月ほどたって、手術の傷口もふさがったころ医師から電話があって、大学病院での再度の精密検査と専門医による診療をすすめられた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150627/1435385917
この日記では病院名は伏せているが、紹介状をもらって慶応大学病院を受診した。
皮膚科の専門医の話では、ひらたく言えば、切り取った患部から悪性化した細胞が発見されたので、再発転移の危険度が高まったという説明だった。
「放っておいたらどうなりますかね」と尋ねたら、「医師としては放っておくという選択肢はありません」と真面目に答えられた。
「がん」という表現を使わないのは、病理学上のカテゴリーの問題のようだった。
医学的に正確な表現かどうかを棚上げにしてしまえば、素人としては、進行は遅く転移や再発もあまりない皮膚がんの一種と理解しておけばよいものと受けとめた。
だから、過度に心配する必要はないけれども、転移や再発が少ないというのは確率の問題であって、まったくないわけではない。放っておけばとんでもないことになりかねない。
この病気は原因が不明なので、有効な治療薬はない。見つけたら手術で切り取るしか治療法はない。
私の場合、腫瘍本体は一度切り取っているが、腫瘍本体と正常な身体との際の部分にがん細胞が残っている可能性があり、それを見つけて取り除く必要がある。
それを見つけるためにPETCT検査をはじめ、転移の疑われる喉のリンパの検査を受けた。

再手術と入院

ちょうど一年前、7/13に広範囲切除手術を受けた。一度手術をして治りかけたところをもう一度切ってえぐるなんて…と思わないでもなかったが、他に治療法がないのであればしかたがない。
前夜から入院し、翌日の午前中に手術があったが、全身麻酔だったので手術中のことは覚えていない。終わりましたよと声をかけられて目が覚めたら主治医が笑顔だったので「うまくいきましたか」と尋ねたら「大丈夫、うまくいきました」と言ってくれたので、安心してまた眠った。
入院中のエピソードは下記に。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150720/1437401356
寿司屋の大将、お元気だろうか。

退院後の傷口

私は回復が早く、入院中から病院を抜け出して信濃町駅裏の喫煙所に煙草を吸いに行くような不良患者だったが、広範囲切除というだけあって傷口は大きかった。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150723/1437613086
その後も一か月ほどは動作に制約があった。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150805
現在はすっかり傷口もふさがっている。
マンガに出てきたナイチンゲールに感心しているのは、入院時にお世話になった看護師さんたちのことを連想しているのだろう。
手術から二カ月してかなりよくなったころの日記。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150912
これ以降、三カ月おきのペースで診てもらっているが、再発転移は発見されず、今では日常生活も問題なく過ごしている。
ただ、あれ以来、虫さされやニキビの跡がどうにも気になるのだが、それはしかたのないことと割り切っている。