犬鳴村はここですか?

「犬鳴村」という都市伝説がある。
九州は福岡県、犬鳴峠付近の山中に地図に載っていない集落がある。その村は外部との交渉を断ち、迷い込んだ他所者は殺されるのだそうだ。あるいは一度入ると出て来れないとか、入り口で引き返した者にも祟りがあったとかいう。
同地域に実在した旧犬鳴村の歴史との関係はなく、比較的新しい都市伝説であることは間違いない。福岡で育った妻が聞いたこともないというのだから、たぶん80年代の中ごろまではこの話はなかった。
1988年に犬鳴峠付近で起きた殺人事件からの連想で生まれた噂話だろうとの説もある。また、ブームになった杉沢村伝説に影響されて生まれたという説もあるが、詳しい経緯は知らない。
ともあれ、この都市伝説で面白いのは「村の入り口に「この先、日本国憲法は適用しません」という看板がある」というところだ(ウィキペディアなどによる)。法律ではなく憲法である。
日本国内に日本国憲法の適用されない地域があり、それが犬鳴村だというのだ。
そもそも「この先、日本国憲法は適用しません」という言い方が奇妙だ。
「適用しません」とは、この言葉の発話者の意志によって適用をやめる場合に使う言い方だ。
日本国内で日本国憲法が適用されない地域があるとしたら、それ自体が異常であって、よほどやむを得ない事情があっての特例措置ということであるはずだろう。そうした場合、普通なら「適用されません」「適用されていません」と言うのではないだろうか。
「適用しません」とは、積極的に適用をやめる場合の言い方である。
あるいは「この先、日本国憲法は適用しません」とは、2015年9月以降は、という意味だったのかもしれない。
そうだとすれば、犬鳴村はまぎれもなく実在する。
福岡県の山中にではなく、政府と自民党が犬鳴村である。
都市伝説がかくも簡単に現実になってしまうとなんだか拍子抜けする。