伝説

今年読んで面白かった本(小説)

年末にご挨拶として、今年読んで面白かった本(小説)を順不同であげておきます。 城平京『虚構推理』講談社タイガ。 松田青子『おばちゃんたちのいるところ』中公文庫。 川奈まり子『八王子怪談』竹書房文庫。 同上『東京をんな語り』角川ホラー文庫。 昨日…

ハロウィンの夜に「妖怪学」

ったく、この忙しいのに…、sumita-m先輩のご指名だからしかたがない。 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161029/1477756878 小松和彦氏が文化功労者に選ばれたと、それはいいとして、朝日新聞が小松氏を紹介するのに「「妖怪学」の小松和彦・国際日本文化研…

高時天狗舞

北条高時が凡愚であったという記事は『太平記』だけではないので史実であったのだろう。そうだとしても極悪非道の暴君というわけではない。病弱で政治にあまり熱心ではなかったという程度であって、鎌倉幕府は北条一門による集団指導体制をとっていたから、…

懺悔(赤い半纏について)

日頃、それはやってはいかんと自分に言い聞かせ、まれには他人様にもご忠告していたことをやってしまった。 思い込み、先入観から、人様の文章の趣旨を誤解したあげくに、さらに自分の思い込みをふくらませてあらぬ憶測を口走ってしまった。 過ちを繰り返さ…

化け猫の困惑

今年は申年ですが、猫の話はどうかと言われて弱っています。 猫は輸入動物なのでそんなに古くはさかのぼれない。平安時代には貴族や寺院で飼われていたそうですが、一般に知れわたるようになったのはもっと後、『徒然草』の頃からでしょう。 それと関連して…

犬鳴村はここですか?

「犬鳴村」という都市伝説がある。 九州は福岡県、犬鳴峠付近の山中に地図に載っていない集落がある。その村は外部との交渉を断ち、迷い込んだ他所者は殺されるのだそうだ。あるいは一度入ると出て来れないとか、入り口で引き返した者にも祟りがあったとかい…

馬場文耕『皿屋舗辨疑録』について二

前回に続き『皿屋敷―幽霊お菊と皿と井戸』の没原稿公開。 丑御前 この物語の舞台となる青山主膳の屋敷は、武家屋敷がずらりと並んだ五番町の一角にあったという設定である。文耕はその土地にまつわる因縁話を語りだす。 時代は「家光将軍の御代(みよ)」とい…

馬場文耕『皿屋舗辨疑録』について

退院を急いだのにはわけがあって、寄稿した『皿屋敷―幽霊お菊と皿と井戸(江戸怪談を読む)』の刊行記念イベント(東雅夫氏いわく皿屋敷大会)が7月30日に催されるからでもあった。 http://www.tokyodoshoten.co.jp/blog/?p=8653 7月30日御用とお急ぎのない…

続・落語の皿屋敷

昨日の日記に『皿屋敷―幽霊お菊と皿と井戸(江戸怪談を読む)』の没原稿を掲載した。↓ http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150708/1436327651 今日のもその続き、つまり没原稿である。 加藤左馬介嘉明の逸話 ところで、秘蔵の皿十枚のうち一枚を割ってしま…

落語の皿屋敷

かつて『死霊解脱物語聞書―江戸怪談を読む』、『実録四谷怪談―現代語訳『四ッ谷雑談集』 江戸怪談を読む』をお手伝いした版元から、シリーズの総仕上げということで『皿屋敷』が刊行されました。 今回は事実上の監修者である横山泰子先生のほか、国文学や民…

「四谷怪談」を読む(二十九)小説的な叙述

前回も述べたように『四ッ谷雑談集』(以下、『雑談』)は小説である。物語は江戸時代初期に起源をもつらしい都市伝説を題材としており、描写には江戸時代中期の世相が反映されているとはいえ、現代のドキュメンタリやルポルタージュと同じものではない。 そ…

「四谷怪談」を読む(二十八)産女の怪

柴咲コウの『喰女-クイメ-』(三池崇史監督)、風邪をひいたり、老親の世話があったり、仕事に追われたりして、とうとう観に行けなかった。今から思えば封切直後がいちばんのチャンスだったのに、もう少しして映画館がすいてから行こうと横着を決め込んだの…

澁澤龍彦「人形愛あるいはデカルト・コンプレックス」

デカルトが愛娘フランシーヌに似せた人形を持ち歩いていたという伝説について、以前に書き飛ばした記事を読まれる方も多いようなので、ここに補足しておく。 http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20110524/1306228790 「フランシーヌ人形」と題した上記の文で…

沖縄怪談「チーアンマー」

沖縄怪談がわからんわからんと言っているが、なにも崎原恒新『琉球の死後の世界』(むぎ社)が説明不足でよろしくないと言いたいわけではないのである。 そもそも『琉球の死後の世界』は、沖縄生まれで長く沖縄県内の教職や教育関係の公職を歴任してきた著者…

沖縄怪談「耳切坊主」

崎原恒新『琉球の死後の世界―沖縄その不思議な世界』(むぎ社)によれば、「逆立ち幽霊」の他に「耳切坊主」というのが沖縄では有名な怪談であるらしい。 なぜ沖縄怪談を読んでいるかというと、先日、ご案内した読書会のテーマが沖縄だからである。 読書会の…

沖縄怪談「逆立ち幽霊」

沖縄の怪談は難しい。 先日、ご案内した読書会のテーマは沖縄である。 ところが、私は沖縄には縁がない。行ったこともなければ知り合いもいない(あっ、一人だけいた。が、めったに会わない)。 読書会のテーマは「琉球共和社会憲法C私(試)案」ということ…

「四谷怪談」を読む(二十七)長右衛門の鏡

『四ッ谷雑談集』中巻の二番目の章「田宮伊右衛門屋敷不思議有事付四男鉄之助死事」の後半が私にとって怖いのは、子どもをめぐる怪談だからである。 幼い子どもが呪われたり、幽霊になって祟ったりする話はなんだか後味が悪くて嫌なんだよなあ。と自分に言い…

「四谷怪談」を読む(二十六)すきま風

旧暦で七月十八日というから、今ならお盆明けの頃だ。 前回その前半をたどった『四ッ谷雑談集』中巻第二章「田宮伊右衛門屋敷不思議有事付四男鉄之助死事」の後半の話だが、前半で語られた伊右衛門宅に謎の男が通っているという噂にふりまわされた事件から一…

「四谷怪談」を読む(二十五)噂の伊右衛門

『四ッ谷雑談集』中巻の二番目の章「田宮伊右衛門屋敷不思議有事付四男鉄之助死事」は、御家人たちのゴシップを並べ立てる『四ッ谷雑談集』のなかではもっとも怪談らしい場面を描く。もっとも怪談らしいというのは言いすぎかもしれないが、少なくとも私には…

「四谷怪談」を読む(二十四)お染

いよいよお岩の祟りが語られる『四ッ谷雑談集』中巻に入る。 『四ッ谷雑談集』上巻については前回までにしつこくこだわったように時代設定の問題があったが、中巻・下巻では元禄時代のこととはっきりしているのでこの問題は解消される。 あれから十五年、失…

「四谷怪談」を読む(二十三)『四ッ谷雑談集』上巻まとめ

クリスマスだが、考えてみれば今の私にほかに書くこともないので、またしばらく『四ツ谷雑談集』について覚書を続ける。 今回は、物語の筋を追うことは一休みし、『四ッ谷雑談集』上巻の不自然な時間の流れの原因について私なりの仮説を書き留めておきたい。

「四谷怪談」を読む(二十二)伊東土快

当初は年内に終わらせるつもりだったが、とてもできそうになくなったので、せめて上巻だけでも終わらせて、それで一区切りとしたい。 お岩失踪はいつの頃か。「文政町方書上」(「書上」)では貞享の頃(1684-87)とされているが、これまで何度も指摘してき…

「四谷怪談」を読む(二十一)お岩、大いに猛る

『四ッ谷雑談集』上巻「多葉粉屋茂助之事 附田宮伊右衛門前妻鬼女と成事」の後半は上巻最大の見せ場である。 茂助から伊東喜兵衛の企みを聞かされたお岩は怒り狂った。鶴屋南北の芝居『東海道四谷怪談』でいえば髪梳きの場にあたる場面だが、舞台をご覧にな…

「四谷怪談」を読む(二十)多葉粉屋茂助之事

いよいよ『四ッ谷雑談集』上巻のクライマックス、伊東喜兵衛と伊右衛門の企みが漏れて、だまされていたと知ったお岩が激昂する「多葉粉屋茂助之事 附田宮伊右衛門前妻鬼女と成事」と題された章に入る。鶴屋南北『東海道四谷怪談』では、髪梳きの場にあたる場…

「四谷怪談」を読む(十九)生霊談義

『四ッ谷雑談集』伊右衛門再婚の後日談である。 今井仁右衛門物語之事 伊右衛門とお花の婚礼の翌日。婚礼の宴に押しかけた三人組が、前夜の話題に花を咲かせている。三人のうち今井仁右衛門が、宴に闖入して来た赤蛇を、伊右衛門先妻お岩の執念と考えたのは…

「四谷怪談」を読む(十八)嫉妬の朽縄

『四ッ谷雑談集』の描く伊右衛門とお花の婚礼の宴は、寛文・延宝のころの流行の話題で盛り上がり、歌や踊りも飛び出して、夜更けまで続いていた。メンバーは、伊右衛門、新婦のお花、仲人の秋山長右衛門とその妻、近藤六郎兵衛、押しかけてきた今井仁右衛門…

「四谷怪談」を読む(十七)婚礼の夜

なんとか年内に終わらせたいので、もう少し続ける。 伊右衛門はついに思いこがれたお花を妻に迎えた。仲人は秋山長右衛門が引き受けて、七月十八日、婚礼の宴が催された。 鶴屋南北の芝居『東海道四谷怪談』では、婚礼の夜にさっそくお岩の亡霊があらわれて…

「四谷怪談」を読む(十六)伊右衛門、再婚へ

お岩は喜んで三番町の旗本屋敷に奉公に出た。これで伊右衛門は晴れてお花を妻に迎えることになった。それは御家人たちが最初に考えた解決案をウソによって実現したもので、伊東喜兵衛の策略は、ウソさえばれなければ八方丸く収まるはずのものだった。 嫁入り…

「四谷怪談」を読む(十五)紙売又兵衛

ちょっと補足するだけのつもりで始めたのだが、こんなに長く続けても、まだ三分の一にも至らない。このブログも週刊四谷怪談みたいになってしまった。 お岩は、伊右衛門から離縁状を取り、伊東喜兵衛の紹介する四ッ谷塩町の紙売(紙屋)又兵衛を請人(保証人…

「四谷怪談」を読む(十四)お岩を説得したのは誰か

さて、いよいよ『四ッ谷雑談集』のヒロインお岩と真の敵役伊東喜兵衛が直接対面する(伊東喜兵衛田宮伊右衛門か女房に初て対面之事)。 夫の放蕩に困り果てていたお岩のもとに伊東喜兵衛が使いを寄こし、お岩が伊東家を訪ねてみれば、喜兵衛はよく来なさった…