「六儀」と書いて「だいほん」と読ませる。六儀(りくぎ)とは和泉流狂言の台本のことなのである。本書は和泉流狂言師茂山千五郎家のために書き下ろされた新作狂言,「豆腐小僧」,「狐狗狸噺」,「新・死に神」の台本に,落語家・春風亭小朝のために書き下ろされた「死に神remix」,講談師・神田山陽が著者の短編小説を原作に演じた「講談 巷説百物語」が収められている。
 狂言・落語・講談は伝統的な大衆芸能である。肩の凝る噺はお門違いだ。可笑しくて,ちょっと悲しくて,ふと我に返ってゾッとするような面白い噺があればよい。そして本書に収められているのは,そんな面白い噺ばかりである。なかでも京極ファンならよくご存じの「豆腐小僧」,江戸末期に突然現れて一躍人気者になり,その後フッツリと消息を絶ってしまった謎の妖怪が,室町時代に誕生した狂言という芸能の枠組みのなかでどんな活躍をしてくれるのか,また,この妖怪についての京極堂一流の謎解きや如何に,と期待が高まるところ。そこは流石,当代一の妖怪師,正体不明の豆腐小僧を見事,狂言のシテとして活かしきり,かつまた,ウンなるほど,と得心のいくオチまでつけて見せた。