『史記』孫子呉起列伝より

上記に、部下に親切にして死地に赴かせる将軍についてうろ覚えで書いたが、id:T_Sさんよりコメントをいただき、呉起のことではないかと教わった。
帰宅して『史記』を開くと、はたしてT_Sさんの言う通りであった。
恐れていた通り、記憶違いの部分もあったので、あらためて、ちくま学芸文庫より引いておく。

魏の文候は起を将軍とした。起は秦を攻めて五白を抜いた。将軍としての起は、最下級の士卒と衣食を同じくし、横臥するのに席を設けず、外出するのに車馬に乗らず、みずから糧を包んでにない、士卒と労苦を分けあった。おできを病む兵卒があったとき、起は彼のために膿を吸ってやった。その兵卒の母親が、これを聞いて嘆き悲しんだ。ある人が、母親に問うよう、「おまえの子は、一兵卒にすぎない。しかるに、将軍みずからおできを吸ってくれたというに、何を嘆き悲しむのか」と。
母親が言った。「ただ悲しむのではありません。以前に呉公起が、あの子の父親のおできを吸ってくれたことがありました。これに感激した父親は、敵にうしろを見せないで、ついに戦死しました。呉公は、いままた、あの子を吸ってくれたという。わたしは、あの子がどこで戦死するものやらと、嘆かずにはおられないのです。」

史記〈5〉―列伝〈1〉 (ちくま学芸文庫)

史記〈5〉―列伝〈1〉 (ちくま学芸文庫)