このあいだ読み終わった本

いまから五、六年前の話。
「かつて青森県に杉沢村と呼ばれる集落があって村民が皆殺しになるという事件が起きた。あまりに悲惨な事件だったので村は廃村となったが、いまでも廃墟に幽霊が出る(そこに行ったものは生きて帰れない)」という噂が当時の若者のあいだで流れちょっとしたブームになったことがあった(テレビ番組でも取り上げられたと思う)。
口裂け女」同様の都市伝説なのだが,地元新聞によって根拠のない噂であることが指摘されたあとでも「真の杉沢村はほかにあった」とか「事件の隠蔽工作が暴露されることを恐れた警察が情報操作をしている」と強弁してこの噂の信憑性を守ろうとした人々もいた。

ジェンダー/セクシュアリティの教育を創る

ジェンダー/セクシュアリティの教育を創る

昨今の「行き過ぎた性教育」批判やジェンダーフリー・バッシングにも都市伝説の流行のような印象を受ける。デマに踊らされている人は自分が見たいものしか見ない。踊らされていると言うより、自ら踊っていると言ったほうがよいかもしれない。
しかも「思いこみの世界」などくだらないと一蹴してそれですむものならよいが、一部のマスコミや政治家が実態とかけ離れたトンデモな批判を繰り返しているため、まんまと信じこんでいる人も多い。
ジェンダーセクシュアリティの教育に取り組んできた現場にとってはいい迷惑だろう。そこで本書は、こうしたバッシングの「思いこみの世界」を実証的に暴きながら、その背景にある社会の変化を分析している。
教育学者たちによる論文が8本収録されており、いずれも読みごたえがある。
私のような素人の要約よりよいと思い、目次を抜き書きしておく。

第1章 性教育・男女平等バッシングの背景と本質―日本の動向・世界の動向・包括的性教育の課題
第2章 ジェンダー/セクシュアリティ/家族をめぐる教科書検定
第3章 人口減少社会の争点と男女共同参画社会への課題
第4章 子どもの性的発達と性教育の課題
第5章 性的マイノリティバッシングから見えてくる性教育の課題―構成主義としての性教育実践の視点
第6章 ジェンダーバックラッシュと家族の言説
第7章 アイデンティティと教育をめぐる政治―ジェンダー/セクシュアリティ問題が示唆するものとそれへの対抗
第8章 ジェンダー・バッシングと教育の秩序化批判