大人になりきれない大人の社会科、という感じかな

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

タイトルを見て思わず吹き出して買ってしまったが、よくできた面白い本だった。
マンガや特撮番組で正義のヒーローと対立する悪の秘密結社、彼らはいったいなんのために世界征服をしようとしているのか、その目的のための手段は合理的か、などと疑問を挙げる。とくに世界征服後の人類支配のビジョンがはっきりしないのが多いじゃないか、という指摘はなるほどと思う(これが結論部分への伏線になっている)。
そこで自分が悪の秘密結社のボスになったつもりで、どうしたら世界征服ができるか考えてみようじゃないの、という趣向。
まず、ビジネス書のノリでリーダー像を考える。マンガの登場人物をモデルに、「正しい」価値観ですべてを支配したい魔王型(ピッコロ大魔王)、責任感が強く働き者の独裁者型(ヨミ)、自分が大好きで贅沢が大好きな王様型(レッド総帥)、人目に触れず悪の魅力におぼれたい黒幕型(カリオストロ伯爵)の四類型に分けてその特徴を指摘。
このあたり、別のキャラクターを挙げたい気もする。例えば、魔王型なら『ダイの大冒険』の大魔王バーンのお人柄はピッタリじゃないかな、とか、横山光輝史記』の始皇帝こそ独裁者の鑑(あれは実在の人物か)などと思うが、それは読者が勝手にやって頂戴ということだろう。
その上で、六つの段階に分けて世界征服の手順を考える。これが楽しい。
秘密結社の設立理念は?から始まって、資金はどうするか、人材はどう集めるか、設備は?人事管理は?と、シリアスな問題をマンガの世界に突きつけていく。このあたり、ガイナックスの社長として経営にタッチした著者の経験が活かされているのかもしれない。悪の組織は必然的に構成員のモラルが低いので、優秀な人材の確保が難しいなどと、思わずウームと呻ってしまうような指摘もある。
全編、著者の軽妙な語り口のお陰で抱腹絶倒。笑っているうちに世界を支配する(政治をする)とはどういうことか、善が社会に通用している価値観のことだとすれば現代における悪の秘密結社は何を目指すべきか、など、興味深いテーマが投げかけられる。