マザー牧場

日曜日はがんばって早起きし、千葉のマザー牧場まで行楽に出かけた。
行こうと言いだしたのは妻である。私も、いつかは行ってみたいなとは思っていたが、実際に行こうとまでは思っていなかった。
「天気も悪いし次回にしようよ」という私に、妻は「今春、まとまった休みが取れそうなのはこの日曜だけだろうし、だいいちこのシーズンを逃すと子羊と記念撮影する機会がない」と、反論のしようもない完璧な論理で私を説得したのだった。
どうやら私は自分では気づかなかったがストレスでかなりグロッキーになっていたようで、妻としては、ネット上の牧場ゲームに逃避している私を戸外で気分転換させることが必要だと感じたらしい。
ふだんは反対の役割分担なのだが、今回は、妻が気をつかってくれた。ありがたいことである。
鉄道とバスを乗り継ぎ、たどりついたマザー牧場は時折小雪のちらつくあいにくの天気だったが、素晴らしいところだった。なんと、各所に喫煙所が設けてある! こういう施設は全面禁煙だろうと覚悟していたので、これは予想外のうれしい発見だった。

妻は羊さんやアルパカをなでさせてもらったりして、たいへんご満悦だった。
ラクターのひく荷台に乗っての牧場見学ツアーにも参加し、ガイドのおじさんに山羊と羊は別の動物だということも教えてもらった。山羊を飼い続けても羊にはならない。ずっと、山羊を家畜化したのが羊だと思い込んでいたので、これはたいへん勉強になった。
ヤギを漢字で「山羊」と書くのは、漢字を作った民族にとって、羊の方が近しい動物だったからなのだろう。ところで、羊の和名である「ひつじ」はどうして生まれたのだろう? はたして羊と「ひつじ」はもともと同じ対象を指す言葉だったのだろうか? 確か、明治以前の日本では、羊はメジャーな動物ではなかったはずだ。中国から輸入した動物だとしたら、「菊」の字に訓読みがないように、「ひつじ」という訓読みもないはずだろう。ん?待てよ、そうすると「虎」の字に「とら」という訓読みがあるのはなぜだろう?
まあ、よくわからないので宿題。
閑話休題。それはともかく、もちろん私も大の羊さん好きなので、羊さんに仲良くしてもらって感動した。
小さな罪悪感も覚えながら、ラム肉のハンバーグも味わった。ラムって子羊なんだよな。さっきなでさせてもらった、まだ毛の柔らかい、ふるふる震えていた、あの可愛いのをつぶして食ってるのか、などという考えは頭から追い払ってペロリと食べた。美味しかった。
おみやげは、ソーセージとパウンドケーキ、それに奮発して羊のぬいぐるみ(抱き枕)。
妻が「大きいのは高いから小さいのでも」と聞こえる程度の小さい声で私に向かって独り言を言うので、財布をはたいて大きいのを買ったのだが、妻は、私がどうしても欲しいというから仕方なく買った、と言い張る(支払ったのは私である)。
アラフィフの男女が、ちょうど人間の赤ん坊くらいの大きさの子羊のぬいぐるみを大事そうに抱えて帰るのは、なんだかいかにも子供に恵まれなかった夫婦の趣味のようで、淋しい絵になるのだろうな、などと思っていささかの躊躇があってもよさそうなものなのに、私ときたら無駄遣いに妻がゴーサインを出してくれたのがうれしくて、ホイホイと買ってしまった。

こうして新しい家族が一体増えた。妻が名前を付けて可愛がっている。