事実婚・うちの場合〜かめさんへのご返事

かめさんという方からid:nagano_haruさん経由で、以前書いた事実婚の記事にコメントをいただきました。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20090517/1242528164#c
お返事を書き始めたら長くなったので、今日の日記といたします。
なお、この記事はほとんど私信に近いものなので、かめさんとnagano_haruさん以外の方はコメントをご遠慮くださるよう、あらかじめお願いしておきます。
人が縁あって夫婦になろうと決意するに至るプロセスは、どれも似ているようでよく見ると違うものです。ですから、私の個人的な経験がそのままお役に立つとは思えないのですが、ご心痛・ご心労は痛いほどよくわかりますので、せめて気休めにでもなればよいかと思い、お話しできることはお話します。
私は1963年生まれ、妻は四歳年上の姉さん女房です。約二年の交際を経て、結婚して十二年になります。おそらく、かめさんは世代的にはnagano_haruさんの方が近いだろうと思いますので、私の経験がご参考になるかどうか心もとないのですが、「中年男性視点の」ということでご笑覧願います。
私は恋愛には奥手で、大好きだった女の子をデートにも誘えぬまま五年間も悶々とする暗い青春を過ごした挙句、その彼女から結婚式の招待状をもらって、友人代表として挨拶するというほど、今風にいえば草食系というのでしょうか、内気な蓼食う虫であります。
その反省があって、数奇な運命に導かれて妻と出会ったときには、この縁をなんとしても手放すまいと、柄にもなくがぶり寄りして、君のためなら何でもするからと懇願し哀願し、やっとの思いで結婚にこぎつけたのです。ですから、事実婚も「君が望むなら」と二つ返事です。
もともと私は学生時代に上野千鶴子さん、江原由美子さん、大越愛子さんらの本を読み漁っていた(マッチョな雰囲気の苦手な文系男子にはジェンダー論は魅力的でしたから)ということもあって、事実婚についてもロジックとしては承知しておりました。
ただし、すぐに実家に対してその旨を表明したわけではありません。まず、それぞれの実家に挨拶に行き、二人で住むアパートを確保、両家の親同士の顔合わせも済ませて、婚約者という認識は持ってもらいました。
親の説得については、nagano_haruさんのところと同じ「自分の親は自分で説得する方式」を取りました。これ以外考えられません。そうでなければ、夫方の両親からは「うちの嫁になる気がないと言うのか」と怒鳴られ、妻方の両親からは「うちの娘を妾扱いにする気か」と罵倒されるのは目に見えていたからです。
それでもやっぱりダメでしたねえ。最初から話にならないという感じでした。これはもう、理屈の問題じゃなくて、受け入れる人なら最初から受け入れるだろうし、そうでない人のガードはかなり固いと思います。

てっきり私(女性)が彼のイエに入り、後を継ぐもんだと思っていたという典型的な「保守的頑固おやじ」

これはまったく同じです。しかも、母まで同様のことを考えていた。しかし、私の両親は昭和ヒト桁世代です。かめさんの彼氏さんの親御さんはそれよりはお若いでしょうから、もう少し話がわかるような気もするのですが、こういうのに世代って関係ないのでしょうかね。
ところで、なのですが、「彼のイエに入り、後を継ぐ」というところに実態はあるのでしょうか。つまり、先方様がご商売とか、代々続く農家とか職人さんとか、子どもの世代が後を継ぐべきイエが実態としてあるのか、ということです。私の実家にはそれはありませんでした。息子に後を継がせるべきイエというのは「家名」というまったく観念的なものでしかありませんでした。ですから私は強気でいられました。反対に、家業なり何なりのイエとしての実態がある場合、後を継ぐか継がないかは本人同士だけの問題ではなくなるので、複雑になるだろうと思います。

これまでうまくやってきた実家で、一夜で居場所をなくし、父親の罵声に打ちのめされている

これもまたまったく私の場合と同じで、ご同情にたえません。この諍いの原因は、人生に対するイメージが違っていたというだけで、誰も悪くはないのです。せめて自分を責められればまだ気休めにもなるのですが、その自分すら悪くない。
妻となる人の意見は間違っていない。
その人を愛した自分の気持ちも間違っていない(そもそも愛に正誤があるでしょうか)。
息子が旧習どおりの結婚をするものだと期待していた父親も間違ってはいない(視野が狭かったとはいえ、習慣というものは感性をも束縛するものです)。
憤懣をぶつける先がどこにもないのです。あたかも、予想外の天災に見舞われて、天を仰いで「なにゆえに私はかくも呪われたのか」と嘆く人のようなものですが、なんと呪っている人すら見当たらない。呪うどころか、関係者の誰もが、ただただ祝いたかった、二人の幸福を祝福したかった、ただ幸福な結婚のイメージが少し違っていただけなのです。
あんな窮地に立たされた経験は後にも先にもありませんでした。
善意と善意の対立なので闘いようもない。おお敵よ、敵がどこにもいない!
彼氏さんもまた善意の人であるならば(そうだろうと思うのですが)、今、彼はただひたすら困っていると思います。純粋に困惑している。
それで私はどうしたかというと、ひたすら親に謝りました。育ててくれたあなた方の期待したような結婚の形式にはならなかったことについて、あなた方の期待とは違ったということのみについて謝りました。泣いて謝りました。
「謝ってすむ話じゃない」と怒鳴られましたが、ほかにどうしようもありません。
そして、実家を出て、妻と二人で暮らし始めました。その日が私たちの結婚記念日です。
結婚式はキャンセルです。もともと親しい人たちだけのシンプルなものを想定していたので、キャンセルに伴う経済的負担は少なめで済みましたが、結婚式というものは親にとっても晴れの舞台なので、ショックは大きかったようです。
私の場合、幸いにも妻の実家が受け入れてくれて、そちらのご親戚へは婿のお披露目会を開いてくださり、ご親族の方々へご挨拶をすることができました。これには救われました。妻のご両親も昭和ヒト桁世代なのですが、事実婚については取り立てて言われた記憶はありません(あ、結婚式のキャンセルについては「簡単には承服できんことですたい」と妻のお父上に叱られました)。私がうかがう時は、いつもあたたかく迎えてくださいます。

特に、ご実家との断絶以後、どのようにしてご実家との関係を修復していったかという過程について、t-hirosakaさんご自身のお気持ちと行動の変遷についてお伺いしたい

さて、関係を断絶しました。
一年ほどは心理的に非常に辛かったのを憶えています。平日は仕事に没頭できても、休日になると気が重くなる。理由の一つに、実家からの呼び出しの電話があるからです。今でも私のところでは、自宅の電話には私が最初に出ることにしています。
実家に行ったところで、終わりのない押し問答が続くだけですが、これはもう致し方ない。月に一回くらい、私一人で行きました。
その他の休日は、ひたすら妻とともに行楽に出かけました。お金がないので、日帰りで行けるハイキングコースとか、B級グルメの食べ歩きとか、当時、私の趣味だった怪談スポットめぐりとか、そういうお手軽なものですが、とにかく家にいると実家から電話がかかってきたときに出なければなりませんから、外出ばかりしていました。
それが今になると、妻と二人でめいっぱい新婚生活を楽しんだかのような結果になったのは面白いものです。
ただ、当時は不安から逃げるような気持ちで、無理やり出歩いていたわけです。
それから、徐々にですが、盆と正月、お彼岸の墓参りなどにはできるだけ親孝行をするようにしました。これは意図的にというよりも、私たちからすれば私たちの正しい判断と行動ですが、その結果が両親を悲しませてしまっていることへの罪滅ぼしのような気持ちでしょうか。誰にも罪はないのですがね。これもいっさい私一人で行います。
決裂後、妻は一度も私の実家を訪れたことはありません(「敷居をまたがせない」と父も言いますしね)。
ただし、数年経ってからのことですが、父が入院したとき、母が入院したとき、は、妻は私と二人で病院に見舞いに行きました。父も母も、よく来てくれた、と泣き出さんばかりに喜んでいました。
妻は律儀な性格なので、父の日と母の日、お中元お歳暮はきちんと贈ってくれます。今では、母が家庭菜園で作った野菜を送ってくれたり、妻が作ったジャムを届けたり、父がパソコンの使い方がわからないと妻に電話で尋ねたり、という程度のつきあいはしています。
私の家族は、私以外は言い出したら退かない人ばかりなので、こういう感じですが、ふつうのご家庭ならもう少し早く雪解けがくる期待ができるのではないかなと思います。

彼をどうなぐさめればよいのか…。

これは、それこそ十人十色ひとそれぞれでしょうから、何とも言えませんが、ご参考までにうちの場合を言いますと、妻から慰められた記憶はありません。妻は「どうしてあんなわからず屋なのっ」と怒ってばかりいました。時には怒り狂った後泣きだしてしまうこともあったので、私はおろおろして謝ったり慰めたりに一所懸命でした。ですから、休日に行楽三昧をしていたのも、私自身が不安から逃げ出したいということもありましたが、精一杯、楽しいことを見つけて、妻が怒らぬよう悲しまぬように努めていたという側面もあります。
とにかく、私と一緒になってよかったと妻には思ってもらえるようにしなければ、元も子もない話です。親と断絶してまで決行した結婚です。自分たちが幸福にならなければ、妻も親も私もとんだ馬鹿を見たことになって、悪い意味での三方一両損です。そんな後味の悪い思いをしてたまるかと、その一心でこの十二年間、懸命に生活してまいりました。
最近、実家に帰ると父は私にこう言うようになりました。「○○さん(妻のこと)は、お前にとってはまたとないよい伴侶なんだなあ、大事にしろよ」と。母も、妻が退院祝いに贈ったバッグを提げて出歩き、「息子の嫁がくれたの」と自慢して回っているそうです。
甘い予測をすれば、うちの頑固親父ですらこうなのですから、それよりは若い世代であろう彼氏さんのご両親が理解してくださるのもそう遠いことではないと期待できるのではないでしょうか。
事実婚のことは、彼氏さんとよく話し合って決めたということでしたから、彼氏さんのご両親は、事実婚を受け入れるような息子を育てた人たちなのです。解決の糸口はきっとあるはずです。
最後に一つだけ、実際的な助言を申し上げます。この件で、決して彼氏さんのご両親の無理解を責めないこと。特に彼氏さんの前では。最愛の妻から恩ある親の悪口を聞かされるのはとても辛いことです(愚痴は第三者に)。また、あなたご自身を責めないこと。あなたがゴメンナサイしてしまったら、あなたの意見に賛同して実の親に立ち向かった彼氏さんの努力は意味がなくなります。
このような軋轢が生じるのは、望ましい社会生活についてのイメージが食い違っているからです。それは現在生きている各個人に直接の責任があるのではなく、明治以来の法制度と教育に起因する問題です。多くの人が、古来の伝統と錯覚してしまうほど習慣化していることですから、個人を責めてどうなるものでもありません。この点はよく覚えておいてください。
かなり、洗いざらい申し上げたつもりですが、ご参考になるかどうか。
お二人が苦境を切り抜けて、善き人生をおくられることを祈っております。