老母

ようやく「恐怖の四十日間」と呼びたい超繁忙期を抜け出して、腰を落ちつけて仕事にとりかかれるようになった、と思った矢先、老母から、渋谷で迷子になったと電話があった。駅前にいるのだが見覚えのない街のように感じる、どちらに行けばいいのかさっぱり分からなくなってしまったという。
最近、徴候と思われるものがあったので、病院で相談するように説得していたのだが、いよいよ認知症の症状が出始めたようだ。
さっそく渋谷に飛んで行ったが、どこにいるのか本人が説明できないので、こちらも途方に暮れてあちこち尋ねまわった挙句、「ハチ公前はわかる?」と聞いたら、ハチ公はわかるというので、そこで落ち合って解決。デパートでコーヒーとケーキを食べさせたら、パニックがおさまって土地勘を取り戻したようで、買い物をしたいと言うのでそれにつきあって実家に帰す。
見つかるまでが心配でくたびれてしまった。