自費出版について

先日、コメント欄に自費出版についてのご質問をいただいた。
私の勤め先ではまったくの自費出版(企画内容を問わず市販もしない、いわゆる私家版)は扱っていないのだが、商売柄、時折お尋ねをいただくこともある。
しばらく前に、知人からの質問に答えた返信メールの下書が残っていたので、固有名詞を伏せるなど若干書きあらためて掲載しておく。
自費出版をお考えなのですか?
正直に言えば「自費出版引き受けます」という広告を出している会社のなかには、素人にはわかるまいと高い手数料を上乗せしているところもありますので、よくご注意ください。
さて、どんな本をお作りになりたいのかわからないので、まず一般論から申し上げます。
出版にかかる費用には、大きくわけて、印刷費、紙代、製本代、編集・デザイン料、原稿料があります。

印刷

印刷代は、黒インク(業界では墨と呼んでいます)だけのモノクロ(1色刷)と、多色刷りのカラー印刷の場合とでは大きく違います。カラー印刷には、フルカラー(業界では4色刷と呼びます)の他、2色刷、3色刷があります。使うインクの種類が多ければ多いほど費用はかさみます。
なお、印刷所の書籍用印刷機は16頁ごとに印刷する仕様になっていますので、16頁が最低の単位です(業界ではこれを1台と呼びます)。

紙も、文字だけの場合と、絵や写真を掲載する場合では使う紙が違ってきます。画集や写真集のように絵や写真が主となる場合は厚めでインクの乗りがよく、表面が平滑な紙を使うのでその分高くなります。

製本

多くの製本所の作業工程は、1000部以上の本を作ることを想定して設定されているため、部数が少ないほど製本代が割高(少部数割増)になることがあります。
また、表紙に堅い厚紙を使う(上製)か、やわらかい厚紙を使う(並製)かでも料金は違います。
しおり紐(スピン)を付けたり、表紙に金や銀を使う(箔押し)とさらに高くなります。

編集・デザイン

印刷代、製本代、紙代にはおおよその相場がありますが、デザイン料や編集費はケースバイケースです。
印刷すればいいだけの完全原稿からスタートする場合と、編集者が取材、インタビュー(テープ起こし)、代筆(補筆)、校閲、写真撮影、図版トレースなど、原稿完成のために関与する場合とでは、その関与の度合いによって、料金化するとかなり違ってきます。イラストレーターやデザイナーが関わるとさらに料金が発生します。

少部数の場合

自費出版会社の料金表はたいていは100部から500部を想定しているようです。
そこで、ご自分の記念のためだけに、本当に少部数だけでよいのであれば、印刷会社や出版社に頼んで経費をかけるよりも、ご自分でプリントアウトして綴じた方が、かかる経費は安くすみます。
また、簡易製本であれば大きな文具店でも引き受けているところもあります。

市販

書店さんで定価をつけて売る場合は出版社を通すことになります。印刷会社ではなく、出版社の自費出版部門(子会社化しているケースもあります)に頼めば市販のルートに乗せてもらえます。
ただし、その場合も、保管料、営業手数料、宣伝費などの名目の手数料がかかる場合があります。
それでもよければ市販はできるのですが、ただ、驚くほど売れません。
商業出版として、売ろうと思って企画し、売れると思って製作し、宣伝など売る努力も重ねてすらなお売れないことがほとんどです。
もちろん、自費出版から話題になりヒットした書籍もないわけではありませんが、出版物全体の中では誤差の範囲と言っていいほどまれなケースです。原稿料(印税)で費用が回収できることは滅多にありません。

確認事項

・本の内容は?
・原稿の種類は?(文章とモノクロ写真や図表だけ・絵画や写真をカラーで掲載する)
・原稿の分量は?(文章だと何字分? 図表・写真・絵画のそれぞれの枚数は?)
・出来上がりのイメージは?(文章中心の書籍・画集や写真集・文章と絵が入る絵本のようなもの・事典や辞書のようなもの・カタログや資料集のようなもの)
・原稿の出来上がり具合は?(すべて書き上げてある・未完成なので手伝ってもらいたい・アイデアだけあるのでプロにまかせたい)
・制作部数は?(必要最低限の部数でよい・関係者に配りたいので300部くらい・市販もしたいので1000部くらい)
・最後にいちばん大切な質問を、なにを、なんのために本にするのですか?
以上、一般的な説明と、確認事項を申し上げました。
単にご自分の文章や意見を公表したいのであればホームページやブログの方が手軽にできます。
目的と条件が釣り合うかどうか、よくお考えになってから決断された方がよろしいかと存じます。