平塚タンメン

先日、珍しいものを食べたのでメモしておく。
誕生日のお祝いに何か一つ願いを叶えてあげると妻が言うので、以前から気になっていた、平塚にある皿屋敷のお菊さんの墓参りをしたいと言ったら、お安い御用だと平塚に連れて行ってくれた。
もちろん、私も五十を過ぎた中年男だから、平塚くらい一人でも行けるのだが、妻がつき添ってくれるというのを断る理由もないから、ありがたくいっしょに出かけた。
お菊さんの墓は、平塚駅西口を出てすぐのところにあるのだが、地図を忘れたため通り過ぎてしまって、地元の煙草屋さんで道を聞いてたどりついた。
そのとき、親切に教えてもらったのでただでは悪いと思って煙草を一箱買ったところ、煙草屋さんはおつりと一緒に携帯灰皿も渡してくれて、何か念を押すように私の目を見て「お気をつけて」と言ったのが気になった。
お菊さんの墓のある公園のまわりには、飲み屋や昔懐かしピンサロが並んでいる。真昼間だったからどの店もシャッターを下ろしていて、なんだかさびれた歓楽街といった風情。
煙草屋さんが気をつけろと言ったのはこのことなのだろうかと思いながら、無事に参拝をすませると、得体の知れない格好をしたお爺さんが近づいてきた。
煙草屋さんの忠告が気になっていたので、なるべく関わらないようにして、離れたところから何をするのだろう?と見ていたら、お菊さんの墓に供えられていたしおれた花や燃えつきた線香を片付けて、まわりをきれいにしていた。
ああ、あの人のおかげでお菊さんの墓は維持されているのだなと感銘を受けた。
ちょうど昼時で、腹も減ったので何か食べて帰ろうと、駅前(東口側)の商店街に出ると、「老郷」という店が目についたので入ってみた。タンメンが名物らしいので、二人ともタンメンを頼んで待っていると、出てきたのは、見た目はわかめうどん。澄んだスープをすすってみると酸っぱい!
妻と私は思わず顔を見合わせた。
まずいわけではない。ただ、他の店で食べる野菜入り塩ラーメンみたいなものをタンメンの基準とすれば、かなり標準のイメージから外れた食べ物だった。
煙草屋さんの忠告はまさかこのタンメンのことではあるまいと思いながら、油そばを参考に、ラー油を大目にかけて食べたら、まあまあいける。食べ慣れれば案外うまいものかもしれない。
なにはともあれ、なんとも風変わりな平塚タンメンを食べ終わって店の外に出ると、無性に煙草が吸いたくなったが、喫煙所らしきものが見当たらない。そういえば、神奈川県は喫煙者弾圧に熱心な知事がいたっけ。そうか!煙草屋さんが気をつけろと言ったのはこのことだったかとようやく気がついた。
駅中の喫茶店の喫煙スペースに駆け込んで一服しながら、平塚の恐ろしさをしみじみと味わったのであった。