吉原の怪談3 吉原の化物

あれこれ読んでみたが、吉原を舞台にした江戸怪談は意外に少ない。
昨日書き留めておいた遣り手の折檻に関連してもう一つ。落とし話のようだが、実話のような印象がある。

出典

「怪談老の杖」『新燕石十種 第四巻』中央公論社。平秩東作編

「吉原の化物」概要

和推という徘諧師が人に誘われて新吉原で遊んだ。夜更けに厠に行き便器をまたいでふと下を見ると何かがある。よく見ると女の首であった。ぎょっとしたが、肝の太い坊主だったので少しも騒がずそっと外に出て様子をうかがっていると、その首が振り返って笑う。その様は死んだ者のようではない。そこで手を伸ばして髪をつかんで引き上げてみれば、首ばかりではなく、紅鹿子の古い小袖を着た女であった。着物は糞尿に染まって臭いことこの上もない。何者ぞと問うても笑うばかりで答えない。和推が店の若い衆を呼んでこういうことがあったと告げると、彼らは女を見て「これは手前どもの女郎です。この頃病気になって休んでいたのですが、いつまにこんな所に入っていたのか、汚いことです」といって、女を裸にして水をかけて体をを洗った。和推は笑って「さては化物の正体見たり。こんなことだろうと思っていたよ」といって二階へ上がって寝てしまった。人々は彼の心の強いことに感心した。韓退之の文集中に、厠の神の祟りにて厠へ入ったとあった。よからぬ事なるべし。

参考

厠神 紫姑はある男の妾だったが、本妻が嫉妬して、正月十五日の夜に厠で殺された。それ以来、世間の人々は紫姑の人形を作り、夜に厠で神降ろしをしていろいろなことを占うようになった。(中国の伝説)
「厠の精は依倚という。青い衣を着て白い杖をもっている。現われたとき、その依倚という名を覚えていて呼びかけるといなくなるが、もし名を知らないと死ぬ。」
トイレの花子さん」を連想するのは思い過ごしか。