印旛沼の川蛍

以下は、数年前に読んだ本からの抜き書きに手を加えたものです。本の話題がないのも格好が悪いので、アリバイづくりのために掲載しておきます。
千葉県印旛沼には「川蛍」という無気味な発光体が現れたと伝えられている(『利根川図志 (岩波文庫 黄 203-1)』による)。
川蛍といってもホタルの一種ではありません。
「形丸くして大きさ蹴鞠の如く、光は蛍火の色に似たり」というから青白い人魂のようなものでしょう。亡者の陰火と思われていました。
夏秋の、とくに雨の夜には至って多く現れ、印旛沼の水面三〇センチから六〇センチくらいのところにフワッと浮かび上がり、飛び交った。夜釣りに出た人などがたまに見かけると実に恐ろしいものだと感じられたそうです。
以前、「河童と幽霊」と題した記事で、河童UMA説を批判して河童神霊論を唱えましたが、この川蛍については逆の場合を想像しています。
どうしてかいうと、『利根川図志』によれば、この川蛍、地元の漁師たちは見慣れているようで、船の舳先に乗ってきたのを棹で叩いたり、網をかぶせて生け捕りにしたりしたらしい。漁師たちによると棹で叩かれた川蛍は砕け散り、ヌルヌルする油のような液体となって、生臭い匂いを発するそうです。
そうするとこの妖怪は言い伝えのような「亡者の陰火」ではなくて、何らかの自然現象、あるいは人為的な現象だったのではないかと思うのです。