水島朝穂編著『改憲論を診る』

本書冒頭には編者の水島による印象的なエピソードが紹介されている。

改憲論を診る

改憲論を診る

水島はフジテレビ系列の番組の企画で、代表的な改憲派法学者・小林節と長時間の討論をおこなった。もちろん憲法九条をはじめ、多くの点で議論は平行線をたどったが二人の意見が「ピタリと一致する場面が生まれた」という。それは「憲法は権力者を拘束し、制限する規範である」という立憲主義の立場である。
この立憲主義の立場から「家族のあり方などを憲法に書き込み、国家が市民に説教するような主張」や憲法改正手続きの容易化を厳しく批判し、自衛隊イラク派遣を違憲と断じたのは、タカ派改憲論者の小林だった。立憲主義は政治的立場を問わずまともな法学者なら当然ふまえるべき法学の常識であることが知れる。
この立憲主義に立つ本書は、憲法制定過程から国際社会の現実にいたる一三の視点から改憲論を診断する。なかでも政党や研究者による改憲論よりも、私たちの耳目に触れやすいメディアの改憲論(読売試案)、「文化人」の改憲論(石原、櫻井、英、西部など)、経済界の改憲論(経済同友会)を診る章が面白い。