国家の品川

 読もうかどうしようかとさんざん迷った挙げ句,同著者の『この国のまじめ』なる続編もベストセラー入りしたのを見て,ついに覚悟を決めた。
 予想通り内容はオヤジの説教である。ただし,話の上手なオヤジであり,功なり名とげた人が座興でする与太話を酒でも飲みながら耳を傾ける,といった気分で読めば,面白いことは面白い。ただし,著者の主観的信念はそれとして承っておくにしても,語られる文化論は知識としては誤解だらけだし,論理もめちゃくちゃだ。もっとも冒頭にはこんな文章がある。
「いちばん身近で見ている女房に言わせると,私の話の半分は誤りと勘違い,残りの半分は誇張と大風呂敷とのことです。」
 まさにその通りの内容であるから面白い。
細かいことを言い出したらキリがないが、本書で著者が顕揚する新渡戸稲造の「武士道」にしても,明治期に西欧近代文明の影響下に成立した,いわばフィクションであることは著者も自覚している(この点は菅野覚明武士道の逆襲 (講談社現代新書)』が詳しい)。
にもかかわらず,近代民主主義をフィクションにすぎないと言って罵倒し、それに対抗する日本固有の原理として(それ自体近代化への反応として仮構されたフィクションである)「武士道」を持ち出してくるのだから、ホラ話として聞くほかないではないか。
もうなんでもありで,とにかくグローバリズムに対して景気よく文句が言えさえすればいい,というのが本書の趣向である。だから,人気があるのだろう。