出雲の阿国に失礼

猿虎先生からトラックバックをいただいていた。
http://d.hatena.ne.jp/sarutora/20110128/p1
なにか糾弾されるのかとびくびくしていたが、そういうわけではないらしいのでホッとした。
この件のようだ。http://tundaowata.info/?p=5957
話題になっているテレビ番組は視ていないが、上掲記事でまとめられていることが事実なら、とんでもない話である。

風水に詳しい女性お笑い芸人、出雲阿国(いずもの おくに)さんが登場。
男性リポーターと一緒に岸部さんのマンションに行き、「間取りは悪くないけれど、使い方が悪い」と、家具の位置を変えるなどした。
しばらくして2人は古そうな本の入った本棚を見つける。岸部さんは古書収集家として知られるが、 出雲さんは「本棚は風水的にその人の頭の中を意味する。読んでない古い本しか置いてない人は頭の中が古い知識しかない。その人の知識にはほこりがかぶっている」と主張。岸部さんは怪訝そうな顔をして「あなたとは合わないようだ」と言うが、蔵書を売ることは了承した。
蔵書の中には岸部さんが「吉田健一全集」といっているものがあり、岸部さんは、15万円の価値があると説明。
吉田健一は昭和の英文学者で、古書市場では比較的人気が高い。しかし岸部さんが「後は任せます」と散歩に出てしまい、その間にブックオフのスタッフが登場。査定の結果、全集は1冊20円が32冊で640円、その他の古書を含め70冊3440円で売られた。
帰ってきて売却価格を聞いて唖然とする岸部さんに、出雲さんは「風水的には整いましたから」と報告。
出雲さんは3440円で掃除グッズを買い、岸部さんがそのお釣り170円を受け取って企画は終わった。

この芸人、二つの間違いを犯している。
第一に、「読んでない古い本しか置いてない人は頭の中が古い知識しかない。その人の知識にはほこりがかぶっている」というのが間違い。
風水という考え方がいつごろに成立したのか知らないが、古代中国の天文地理と易占が起源だと主張しているようだ。気がどうのこうのと言うあたりは朱子学の影響もあるだろうから、現在の形は古く見積もってもせいぜい宋代以降だろう。それでも、岸部氏の蔵書よりははるかに古い。
このような古い知識、少なくとも古さを誇っている知識に立脚しているにもかかわらず、古い知識をその古さのゆえに退けるのは矛盾である。古い知識は「ほこりがかぶっている」と貶めるのなら、まず自らの風水の知識を捨てるべきだろう。ついでに、歌舞伎の起源伝説の人物の名を借りた芸名も、その由来の古さゆえに「ほこりがかぶっている」だろうから改名すべきだろう。そもそも芸の道で生きようというのなら、出雲の阿国に失礼だとは思わないのか。
第二に、古本を処分するのにブックオフを呼んだのが間違い。
ブックオフは、まだ新しいけれどももう読まない本を処分するときにはよいが、本当に古くて、古さに価値のある古書には値段がつかない。そういうシステムになっているからだ。これについては猿虎先生がトラックバックした記事に書いたことがある。
いつだったか、松尾芭蕉直筆の修正の入った『奥の細道』が関西の古書店から出てきて話題になったが、あれなどはブックオフに持ち込んだら廃棄処分になる。
念のため言っておくが、ブックオフが悪いのではなく、ブックオフを呼んだのが間違いなのである。
所詮はバラエティーショーの一コマに目くじらを立てるのも大人げない気もするが、大好きな古本をコケにされた上に、かつての勤め先を悪用されたのはなんとも不愉快なので一言書いた。