人間の学としての倫理学

学生時代、きちんと勉強しなかったことがコンプレックスになっていて、周期的に哲学史のおさらいをしなければ、という強迫観念に取り憑かれる。

人間の学としての倫理学 (岩波文庫)

人間の学としての倫理学 (岩波文庫)

文庫になった『人間の学としての倫理学』のアリストテレスの項を通勤電車のなかで拾い読みする。
ここで和辻はアリストテレスの「人間の学の前半が個人主義倫理学として独立させられるべきではない」ことを力説し、次のような注を付けている(p61)。

シジウィックの言い現わしを借りれば、Ethicsはprivate Ethicsと言った方がはっきりするような個人の善あるいは幸福の学である。すなわち個人としての個人の合理的活動によって得られる限りの、人の善あるいは幸福の研究である。

和辻はここでいう「個人の善あるいは幸福の学」に対抗するものとして、「人間の学としての倫理学」を構想している。シジウィックは、和辻にとっての仮想論敵の一人であろう。
ちなみに、シジウィックという人は、伝え聞くところによるとなかなか面白い人らしいのだが、どういうわけだか著作の邦訳がない。私のような英語音痴には困ったことである。