我田引水

ある論者が某サイトで民主党マニフェストの教育政策を評価していたが、違和感がある。
誰かを論難することが目的ではなく、むしろ自戒のためのメモなので論者の名前は伏せる。
この論者は冒頭で次のように言う。

 今回の民主党マニフェストの全体としての特徴は、前原誠司代表時には、自民党以上に明確な市場原理主義政策をとっていた民主党が、そこからの明確な離脱を宣言しているということである。これは小沢一郎代表就任以後、とりわけ前回の参議院選挙前の2007年4月以降、「生活が第一」をスローガンに掲げ、憲法「改正」を当面棚上げし、民主党構造改革と軍事大国化を批判する方向での路線転換を行い、それによって参議院選挙で与野党逆転を果たしたことによる影響の延長上にある。
 この2007年4月における民主党の路線転換の背景には、2003年以降全国に広がった教育基本法憲法改悪への労働者・市民による反対運動、また構造改革の推進による「貧困」問題、「格差社会」問題の浮上とそれを批判する世論・運動の盛り上がりという二つの要因があったことは、しっかりと確認されるべきことであるだろう。

民主党の路線転換はそうだとしても、その背景として挙げられている事柄には違和感がある。「構造改革の推進による「貧困」問題、「格差社会」問題の浮上とそれを批判する世論・運動の盛り上がり」は当たっているかも知れないが、「2003年以降全国に広がった教育基本法憲法改悪への労働者・市民による反対運動」についてはどうか? はたして野党第一党の政策転換を促すほどのインパクトがあったかといえば、反対運動にかかわった1人としては残念なことだが決してそうではなかった。その証拠に、この論者自身が自らの文章を次のように結んでいるのである。

民主党は2006教育基本法に反対するのか否か、2006年に自らが提出した日本国教育基本法案への「改正」を現在でも目指しているのかどうか、あるいは別の選択肢を探っているのか。その点を有権者に明示する必要があるだろう。

つまり、民主党は少なくとも教育基本法に関しては路線転換はおろか見直しすらおこなっていない。だからこそこの論者自身、上記のような注文をつけざるを得ないのである。
この論者が言うように「民主党の路線転換の背景には、2003年以降全国に広がった教育基本法憲法改悪への労働者・市民による反対運動」があったのなら、今さら注文などつける必要のないマニフェストが出ていなければならなかったはずではないか。
自らがかかわった運動の過大評価は厳に慎むべきだろう。自画自賛して舞い上がるようでは現状認識を誤ることになる。
もちろん、文科省と自民・公明の巨大与党を相手に我々は奮戦したし、その意義たるや大きい。けれども、それは政治を動かすまでには至らなかった。仮に今回の衆院選で政権交替がおこなわれ、結果として政府の政策が転換されたとしても、それは我々の主張が受け容れられたからというわけではなく別の要因によるものだ。
この苦い教訓を噛みしめない限り、裸の王様になって転落することになるだろう。
以下、各論は省略。

追記

holyagammonさんが教えてくださった。
http://d.hatena.ne.jp/holyagammon/20090824/1251121975
民主党マニフェストの母体となる公約集の文部科学政策のトップには、党独自の「日本国教育基本法案」の概要を掲載」されているそうだ。

民主党の教育政策の集大成である「日本国教育基本法案」」とまで持ち上げていることから、教育基本法に関する路線転換をここから見出すのは望み薄のようである。

ということは、上記の論者のような評価の仕方は、「民主党の路線転換の背景には、2003年以降全国に広がった教育基本法憲法改悪への労働者・市民による反対運動」があったとみなす点で、やはり基本的なところで決定的に誤っている。