一寸法師

また変な夢を見た。
珍しい写本があるというので見せてもらう。写本という話だったが、現物は手書きではなく版本で、これならだいたい読めると思って目を通す。内容は一寸法師の異伝のようだ。
昔々ある夫婦に男の子が生まれた。男の子は産まれてすぐに言葉を話したので、親は気味悪がって小さな舟に乗せて川に流して捨てた。
川下の村には子どもに恵まれない夫婦がいた。この夫婦は川上から流れてきた赤ん坊を拾って大切に育てた。
赤子なのに言葉を話すので釈迦の生まれかわりだろうからということで、法師と名付けられたが、法師は何年経っても赤ん坊の大きさのままだった。
ある年、飢饉で家に食べるものもないのに、役人が税を取り立てに来た。養い親がいくら詫び言を述べても役人が立ち去らないので、ついに法師は役人を斬って出奔した。
法師は、自分が捨てられた時に乗せられていた小さな舟で川を下り都に出た。
法師と名付けられたのも何かの縁だろうからと、寺に入って僧になろうとしたが、体が小さいのでどこの寺でも相手にしてくれない。
何軒目かの寺では、体の大きさを言うなら奈良の大仏は偉くて京の小さな仏は偉くないのかと問答に及んでねばったが、生意気だと叩き出されてしまう。
門前で、他にいくあてもなく泣いていると、たまたま参詣に訪れた貴族の幼い姫が、面白がって父にねだったので、姫の飼い猫の護衛として公卿の家に雇われることになった。
この猫が実は鬼の化けた姿で、姫をさらって逃げてしまう。
姫をさらった鬼を追いかけて、鬼の屋敷に潜り込んだ法師は、そこで打ち出の小槌を見つける。
小槌を振るうと、法師の体は見る見るうちに鬼を見下ろすほど大きくなり、鬼を一撃で退治。
連れて帰った姫のムコになってめでたしめでたし。
題名はなく、巻末に「世ニ云フ一寸法師トハコノコトカ」と記してある。
ところどころに挿絵があって、本文では簡単にしか描かれていない部分を補っている。なかなかよくできていると感心するが、書体が明朝体のようにも見えるし、文章も古くてもせいぜい江戸時代のもののように感じる。
「珍しいものですが、そんなに古いものじゃないと思いますよ」と言って本を返すと、残念そうに溜め息をつかれた。
あんまり残念がるので、あわてて「念のため専門家に見てもらった方がいいですよ」ととりなしたところで目が覚めた。