別役実著『ベケットと「いじめ」』

ベケットと「いじめ」 (白水uブックス)

ベケットと「いじめ」 (白水uブックス)

独特の作劇法で唐十郎寺山修司らとともに戦後演劇をリードしてきた劇作家、別役実が「葬式ごっこ」事件を論じた異色の人間関係=演劇論。「葬式ごっこ」事件とは、1986年、東京都の公立中学校に通う男子生徒がクラスメイトの執拗ないじめにあい、「このままじゃ生き地獄になっちゃうよ」という遺書を遺して自殺した事件。男子生徒の自殺の引き金になったのが彼は死んだことにしようとして行われた葬式ごっこだったと想定されることからこの名で呼ばれる。葬式ごっこには教員らもかかわっていたことがわかり注目を浴びた。
別役は「葬式ごっこ」事件において、誰も明確な悪意を持たず、悪ふざけが高じていくうちに一人の人を死に追いやる過程をベケットの不条理劇と重ね合わせて読み解いていく。

冗談だという前提にたってかなり残酷なことをしたりなんかしている。そしてその場合冗談であることを理解しない人間は致命的なんです。仲間はずれにされてしまうというぐらいですから…。一度こういう状況ができてしまうと、そこに暗黙のルールができて、そのルールに関わることによってしか、自己主張ができなくなるんです。

別役はこれを「個」が集合して関係を作っているのではなくて、関係の中に「孤」がある場合の、致命的な病理」であって近代社会=近代演劇の前提では捉えきれないと指摘する。
親本は1987年に出たものだが、現在でも一読に値すると感じた。