古山明男著『変えよう!日本の学校システム』

とりあえずこれは読んだので感想を書き留めておく。

変えよう! 日本の学校システム 教育に競争はいらない

変えよう! 日本の学校システム 教育に競争はいらない

教育問題の多くの本質は制度問題である。これは教育に携わる人ならたいていは知っているのだが,世間ではオヤジの説教みたいな精神論ばかりがまかり通っている。精神論にしか目がいかないから,教育改革といえば公教育の精神を定めた「教育基本法」を改正すればよいと誤解したままトンデモな議論がなされてしまう。
本書はこうした風潮に対して明快な対案を示す。問題の根は公教育のシステムについて定めた「学校教育法」と「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」にあるとのっけから喝破。法律論というと素人には近づきがたい気もするが,不登校や学力問題など,最近の話題を読み物形式で織り込んで,いわゆる教育問題がどのような構造から生じているかを明快に示している。
官僚統制にがんじがらめになって,新しい事態に対応できなくなった日本の教育システムを「中央集権無責任体制」と歯切れよく切って捨てる議論の運びは痛快。
これまでの教育改革論議は,おもに「お役所仕事か,営利主義か」という対抗軸でしか議論されてこなかった。この発想の貧困は,自由か平等か,というニセの選択肢で人々を惑わせてきた。本書は欧米における教育改革の先行事例を参照しながら,教育の自由と平等をより拡大する道を示唆する。
著者は私塾とフリースクールを運営してきた教育者。アカデミズムや行政からではなく,在野からこうしたまっとうな議論があらわれるところに,日本の教育の病理と底力の両方が示されているようで興味深い。
また、蛇足だが、二年ほど前に新聞の投書欄に、どこかのフリースクール関係者が、教育基本法のせいでフリースクールが認可されない、早く改正をというような趣旨の意見を寄せていた。教育関係者のくせに学校教育法と教育基本法の区別も付かないとは、と呆れかえったものだが、本書の著者は違う。
もちろん、現行法を完全なものと見なして賛美しているわけではないが、教育行政のあり方を定めた第十条に着目し、「日本の教育がお役所仕事で行き詰まらないための予防薬だったし、唯一の治療薬でもあったはずなのだ」と高く評価している。
また、現行法の問題点についても指摘した上で、なお現行法には「どこの邪魔にもならず、援助的」という「大きな長所」があるという。

この「教育基本法」で、どんなオールタナティブ教育も、在宅教育も、社会教育もやれる。学校教育に対する縛りがほとんどないし、家庭教育にも社会教育にも援助的である。教育改革をやるのに便利である。(p186)

冷静に考えれば、特定のイデオロギーに偏った人以外は同じような結論に至るのではないだろうか。
なお本書の著者のブログは下記。
http://blog.goo.ne.jp/frymakio