ゴリラが可愛くなった

滅茶苦茶に忙しくて、積ん読ばかり増えているが、この本は通勤電車の中で読了してしまえるほど面白かった。

暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る (NHKブックス)

暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る (NHKブックス)

霊長類の専門家による暴力論。
ゴリラなどの類人猿たちはどこかで暴力をコントロールして個体間の葛藤を解消し、対立が悲劇的な結末に至らないようにする。本書には二頭のゴリラのケンカに第三のゴリラが仲裁に入って和解させる写真が掲載されている。
ところが人間は自らの暴力を上手くコントロールできなくなっている。そこでわれらが親戚である霊長類たちの和解の方法に学んで、人間の攻撃性をコントロールする方法を考えようというのが本書である。

ゴリラは互いの立場を尊重し合えるなら敵意を表さずに付き合うことができる。ゴリラの子どもは遊びこそすれ、仲間とも他の動物とも決して戦ったりはしない。人間はなぜ子どもたちまで、相手を抹殺しようとするような強い敵意を抱くようになったのだろうか。

私は動物学には掛け値なしの門外漢だから、専門家同士ではどう評価されるのかはわからないが、動物たちの狩猟やテリトリーをめぐる争いと人間の戦争とは本質的な違いがある、という指摘には説得力を感じた。また、K・ローレンツの攻撃本能論が既に時代遅れになっているなど、本書を読んで初めて知ったことも多く、私には有益な読書だった。
類人猿のオスの子育てに関連して「父性」という言葉が留保なしに使われていて、行き過ぎたジェンダー・フリー教育に毒された私(ウソ)にはドキッとしたが、よく読むと、いわゆる父権論者のいうそれではなく、動物の行動のパターンを表す言葉として使っている。
感情移入を抑えて、あくまでも動物学の知見にもとづいて書かれた本だが、一カ所、私の涙腺を刺激するところがあって思わず号泣。
読後、ゴリラが可愛くなってしまった。