妻に隠れて観た映画

映画というと、ふだんは妻と連れだって見に行くことが多い。DVDも夕食をとりながら妻と見る。だが、ときどきは一人で映画館に足を運んだり、こっそり借りてきたDVDを妻の留守中に再生したりすることもある。
なぜなら娯楽にエロ・グロ・ナンセンスは不可欠と思っている私と違い、妻は残酷描写と性描写のある作品を避ける傾向がある。そのくせ、激しい戦闘シーンのある『風の谷のナウシカ』は大好きなのだから矛盾している(巨神兵が可哀想じゃないか)。
そもそも、家にゴキブリが出ると窓の外に逃がしてやるのは私であり、息の根を止めるまで叩き潰すのは妻の方である(その鬼気迫る姿といったら…)。どちらがナウシカブッダ(「聖おにいさん」の)に近いかは一目瞭然であろう。
それはさておき、以前から思い切りのよいタイトルが気になっていた「吸血少女対少女フランケン」を、妻に隠れて視聴した。
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肉食系女子と草食系男子という言葉が流行ったりしたが、そのまんま映像にするとこんな感じかもしれない。あ、いや、そのまんま、ということはないか、冒頭から血しぶきが飛び、肉が砕け散るのだから。怪物的にデフォルメするとこんな感じ、と言い直そう。
ストーリーは込み入った話ではない。バレンタインデーの高校を舞台にしたありふれた三角関係。美男の同級生・水島(斎藤工)をはさんで、恋敵となった吸血少女と少女フランケンがスプラッタなバトルを繰り広げる。ただ、語り口はどこか「下妻物語」を連想させるもので、ホラーではなく、どこまでもコミック的な青春映画なのであった。
ヒロインである吸血少女・有角もなみ役の川村ゆきえは、俳優としては器用な方ではないだろうが、視覚的な存在感が抜群である。本作を見るまでは二十代半ばの彼女に高校生役はきついんじゃないかと思っていたし、実際、本編が始まってからもしばらくは彼女のセーラー服姿がコスプレにしか見えなかったのだが、なにせ、登場人物全員がある意味でコスプレをしているような映画である。川村がセーラー服を着た大人の女性なら、もなみのライバル、フランケン少女・富良野けい子役の乙黒えりが演じているのもゴスロリ少女のコスプレをした大人の女性、他にも教師のコスプレ、ガングロ少女のコスプレ…、けい子の父親で理科教師の富良野津田寛治が怪演)にいたっては物語の後半では鏡獅子の扮装であらわれる。ストーリーが進むにつれ、だんだんとこれでいいのだと思えてきた。そう思わせるのが演出の力であり、監督の力量というものだろう。
話を元に戻す。本作中で印象に残ったのは、吸血少女もなみが食いちぎった男ののど笛から高く吹き上がった血しぶきを全身に浴びて、歓喜の表情を浮かべながら踊るシーンだった。猛暑の夏、太陽に照りつけられて火照った肌に夕立の雨を浴びて生気を取り戻す瞬間、そんな場面である。そしてこのシーンでの川村は実に美しかった。この映画を見て損はなかったなと思えた映像だった。
内田春菊の漫画が原作だそうだ。そう言われてみれば、水島のナレーションが春菊作品のモノローグの雰囲気をよく醸し出していた。