珍病・線維肉腫その後

先月末の土曜、妻が旅行に出たので自宅でのんびりはねを伸ばしていたところ、線維肉腫の手術をした医師から電話が来た。
お医者さんから電話をもらったことなどこれまでなかったのでびっくりした。
検査の日は八月のはずだったのに、あれ今日だったかなとうろたえる私に、主治医はもっとうろたえる話をした。
「検査結果を皮膚科の専門医と検討した。病気の説明と、今後の治療について相談したいので、来週にでも病院に来てほしい。なるべく早い方がいい」という。
週明けの月曜日に行く約束をした。
これって…、嫌な予感がてんこもり。びくびくしながら休日を過ごし、旅行から帰ってきた妻と月曜に病院に行った。
私がかかった珍病・隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)は、悪性腫瘍とはいえ、再発・転移の心配があまりない、おとなしい皮膚がんみたいなものだが、長いこと放っておいたので、危険度がやや高まった。やはり再度精密検査の上、広範囲切除手術をした方がよいとすすめられた。
詳しいことは大学病院の専門医から説明を受けてくれと、もう紹介状も用意してあった。紹介状のあて先は、某有名大学病院であった。早い方がよいと、医師がその場で某有名大学病院に連絡を入れて予約までとってくれた。
これは、かなりヤバい話なのではないのか。
手術が成功してホッとしたのもつかの間、百万人に何人かの珍病にまたもや振り回されることになった。
しかも、その時は手がけていた仕事のフィニッシュ間近で、てんてこ舞いだった。なんでこのタイミングで来るかなあと頭をかかえた。

某有名大学病院(六月第一週)

もちろん珍病のこともあるが、紹介状のあて先が某有名大学病院だったことも心配の種になった。
先立つものは金である。某有名大学病院には、なんとなくお金持ちの病院というイメージがある。私はといえば素寒貧の貧乏人だ。高額の医療費を請求されたらどうしようとびくびくしながら訪れたのだが、初回は病気の説明と、PETCTという検査の説明を受けただけだったので、そんなにかからなかった。
若くてイケメンの皮膚科の専門医の説明では、外科医が切り取った患部をよく調べてみたところ、隆起性皮膚線維肉腫からもう一歩、再発・転移の危険度の高い線維肉腫になっている部分があったので、やはり広範囲切除した方がよい。この病気には抗がん剤放射線も効かず、外科手術だけが効果的な治療である、ということだった。同行してくれた妻が「それならバッサリ切っちゃってください」とあっさり決めたので、再手術することになった。
前回の手術は、おできを切り取る感覚でいたので局部麻酔で日帰りだったが、今回は全身麻酔で広範囲に切り取るので傷がふさがるまで一週間ほど入院してもらうとのことだった。心配なので費用を尋ねたら、差額ベッドや手術痕が目立たないようにするなどのオーダーがなければ国保で「10万円くらい」とのことだった。

PETCT検査(六月第二週)

翌週、かかりつけの町医者に痛風の薬をもらいに行ったついでにこの間の経緯を話した。医師は「えっ、がんだったの?あれが線維肉腫か、僕も初めて見ましたよ」と驚いていたが、このベテランの先生が「なんだかただの腫れものじゃない気がする」と総合病院に紹介状を書いてくれなければ、とんでもないことになっていたので、「先生のおかげで命拾いしました」とお礼を言っておいた。
この週に某有名大学病院でPETCT検査を受けた。全身のがん細胞の有無を調べる検査。前回の手術での取りこぼしの有無を見きわめることと、他の場所に転移がないかどうかを調べること。
がん細胞は大飯ぐらいの上に甘いものが大好き。本体の人間が半日でも絶食をすると腹をすかしてじたばたするので、放射性物質入り糖分をえさに見えないがん細胞の居所を探り出すという検査らしい。「毒まんじゅうみたいなものですか」と聞いたら「違います」とにべもなく。
この検査は時間がかかる。検査自体にかかる時間は短いが、検査前の問診と説明、毒まんじゅうの仕込み、検査後の毒まんじゅうの排出に待ち時間込みで各一時間ほどかかった。
いちばんたいへんだったのが、検査中、安静にするのはもちろん、考え事もしないでくれと言われたこと。「無念無想ってことですか?」「そうです」「般若心経を暗唱してもいいですか?」「だめです」ということで、無念無想でも悟りは開けない。
朝九時半ごろに病院の受付をしてから午後一時過ぎまで、がん細胞ともども空きっ腹になって検査を終えた。この日の遅い昼飯は病院のそばにある日高屋でラーメン・ギョーザ・チャーハンのセット。
PETCT検査にかかった費用は国保で約3万円。検査費用は入院・手術費用とは別。

検査と限度額適用(六月第三週)

PETCT検査の結果は転移なしとのことだったので、ホッとした。ただ、喉のリンパ節が腫れているので念のため耳鼻咽喉科の検査をということで、また検査の予約。
その他、手術のための事前の検査として、呼吸器、血液、心電図など。さらには麻酔科の医師から説明。この大学病院は古い建物に建て増ししたのか、館内の構造がやや複雑で、次はあっち、その次はそっちとぐるぐる歩かされる。結構くたびれた。
入院の説明も受けた。費用のことを尋ねると、やはり10万円ほどが見込まれるとのことだが、高額療養費の負担限度額適用というものを申請すると、私の場合、半分くらいに減額されるらしいことを教えてもらった。後日、市役所に行くと簡単に受理してくれて、国民健康保険限度額適用認定証というものを発行してくれた。入院のときに提示すれば自己負担の上限を超える分は減額されるとのこと。ちょっとホッとした。

耳鼻咽喉科受診(六月第四週)

PETCT検査の結果、喉のリンパ節が腫れているので念のため耳鼻咽喉科の検査。はなから突っ込むカメラとか、超音波なんとかとか、リンパ液採取とか。
結論は、喉がちょっと腫れているががん細胞によるものではないとのこと。耳鼻咽喉科の、これもイケメンの医師によれば、PETCT検査は精密だが、細胞が活性化しているところを全部拾ってしまうので、よしあしがあるんですよね、とのこと。
この検査も含めて、PETCT検査以外の検査費用は、2万円ほど。ひっくるめて5万円は検査だけに費やしている。
ともあれ、この日の検査で手術前の診察や手続きなどはすべて終わり。
来月の某日、入院手術の運びとなった。
病院通いの一か月だった。