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丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)

丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)

最近、よく論じられる知識人の評伝。
戦後民主主義といい、リベラリズムといい、昨今ではすっかり評判の悪いものになっており、その代表者である丸山真男は右からも左からも批判されている。批判のなかにはナルホドと思う点も少なからずあるが、本書にも挙げられている熱に浮かされたようなバッシングは確かに見苦しい。
著者はこうした過剰反応を「丸山病」と名づけ「『アメリカニゼーション』や工業化による『精神的退廃』に関してまで責任を負わされては、さすがに丸山も浮かばれない」とからかっている。都合の悪いことはなんでも丸山(に代表される進歩的知識人)のせいにする、そういう風潮があったし、「丸山真男」という固有名詞を別のものに入れ替えたかたちでなら、その傾向は今もある。
本書は、何も丸山を全能の知識人として称賛するものではない。日本の特殊性に着目するあまりアジア文化圏を軽視する、あるいは政治学から女性を排除する傾向など、現代の視点から見れば政治思想史の研究者としては致命的な弱点についてもきちんと指摘している。
ただ、本人の言動とは無縁のところで貼り付けられたイメージにとらわれて丸山政治学を批判したり称賛したりすることは、あまりにも非生産的であるのは理の当然。
いわば、丸山幻想論の幻想を指摘するといった趣なのだが、こういうことを新書一冊をかけて説かなければならないご時世ということか。もちろん、誤解による批判は有害無益なのでただされるべきなのだが、いつまで続ければよいものやら。