今年の10冊

今年、出版された本に限って選んだ。
ただし、私は年に五〇冊ほどしか新刊書を読まないので、他人様にお薦めするという意味で挙げるのではなく、あくまでも自分の覚え書きとして、である。
以下、順不同。

われらはみな、アイヒマンの息子

われらはみな、アイヒマンの息子

日記に書いた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20070309/1173413581

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

前半は二〇世紀後半に急速に発展した分子生物学が「生命とは自己複製するシステムである」という認識に達するまでのプロセスであり、分野としては科学史ということになるのだろうが、その硬質なイメージとは裏腹に上質なエッセイを読むようで飽きさせることがない。著者が在籍したニューヨーク・ロックフェラー大学の回想と野口英世についてのいささか皮肉なエピソードから始まり、DNA解明によるノーベル賞の陰で研究成果を簒奪された女性研究者の悲劇、ポスドク残酷物語…と、次々と興味深い人間ドラマが展開される。
とはいえ単なる逸話集ではない。科学史のエピソードとともに、観察とは、実験とは、仮説とは、といった自然科学の基本的な考え方が読者に伝わるようになっており、分子生物学というジャンルを越えた科学論入門としても読める。後半では一転して分子生物学の最前線での著者自身の研究活動が語られる。そして「自己複製するシステム」という生命観の限界が明らかにされるのだが、それを論述する文章が美しい。

  • 怪獣記

怪獣記

怪獣記

日記に書いた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20071112/1194853211

ネオリベラリズムの精神分析―なぜ伝統や文化が求められるのか (光文社新書)

ネオリベラリズムの精神分析―なぜ伝統や文化が求められるのか (光文社新書)

日記に書いた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20070823/1187861435

  • モダンという時代

日記に書いた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20070208/1170917457

  • 先生とわたし

先生とわたし

先生とわたし

日記に書いた。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20070703/1183435428

  • 〈個〉からはじめる生命論

〈個〉からはじめる生命論 (NHKブックス)

〈個〉からはじめる生命論 (NHKブックス)

おharuさまが、読んでいるこちらが身悶えするような書評を書いていらっしゃる。
http://d.hatena.ne.jp/furuya-haru/20071212
妬ましいくらいに絶賛されているが、

とてもいい本だったけど、昔、ハルを孕んだときのように、将来、障害があるかもしれない子を産むことを、周囲の親しい、大好きな人たちに反対されたとき、どうやって説明したらいいか、自分の決意をどうやって肯定したらいいかについては、やっぱり、解答は得られなかった。

と、釘を刺しているところも、素敵。

前巷説百物語 (怪BOOKS)

前巷説百物語 (怪BOOKS)

面白かった。

たたかう!ジャーナリスト宣言―ボクの観た本当の戦争

たたかう!ジャーナリスト宣言―ボクの観た本当の戦争

著者は75年生まれ、若い世代に属する新進気鋭のジャーナリストである。イラク戦争開戦直前の緊張する首都バグダッド、米軍による無差別攻撃を受けたファルージャ自衛隊が駐屯したサマワ、さらにイスラエル軍空爆を受けるレバノン、大津波に被災したアチェ。著者の行く先にはいつも瓦礫と飛び散った肉塊と血の水たまりがあり、空気は死体からただよう腐臭に満ちている。大手マスコミが尻込みする危険地帯にカメラ片手に単身突入するのだから、勇猛果敢でスリルを求めて戦場や被災地に向かう命知らずかと思っていたら、違った。現地に向かう飛行機のなかで不安にさいなまれ、妻子を思う、ごくふつうの青年である。
銃弾にあたれば人間は簡単に死んでしまう、爆弾が落ちれば建物ごと粉々に吹き飛ばされ名前のない肉片となる、捕虜にされれば人権など無視される、著者はそのことをよく知っている。

戦争とは、恐ろしいものだ。まるで、ショーか何かのように、テレビやパソコンの画面で観るのではなく、実際に『空爆される側』にいれば、そんな当たり前のことが嫌というほどよくわかる。

しかし、われわれの大多数はそのことを知らない。その落差が著者、ニートだの氷河期だのとさんざんな言われようをしている世代に属するやさしげな青年を駆り立てるのではないか。そう思った。
威勢のいいタイトルと衝撃的な内容だが、それを語る言葉は繊細でひたむき。好感を持った。

パール判事―東京裁判批判と絶対平和主義

パール判事―東京裁判批判と絶対平和主義

パール判事(文献によってはパル判事とも)は東京裁判で、勝者が敗者を裁くことは法秩序に対する信頼を損なうとして異議をとなえた意見書(通称・パル判決書)を出したことで知られる。それをもとに「日本無罪論」「大東亜戦争肯定論」が語られたりもしている。
しかしパールは非暴力・不服従主義をかかげたガンディーに心酔する絶対平和主義者でもあった。その彼が戦争犯罪を無罪放免したり、あまつさえ戦争を肯定したりするとはとうてい思えない。日本の戦争は無罪であるとした親日家、というパール像は、はたして事実に即しているのか。
著者は、パールの生い立ちをたどってその人物像を描きなおし、日本免罪論の理由に使われる「パル判決書」に何が書かれているかを明らかにしながら、パールの東京裁判批判の真意は何か、「判決書」の意義はどこにあるのかを突きとめていく。
本書を読んではじめて知ったことも多く、たいへん勉強になった。

次点

蒼穹の昴』の続編、同じく後日談の『珍妃の井戸』に比べると散漫な印象がぬぐえなかった。

まだ読み終わっていないので。

まだ読み終わっていないので。