余分な説明

週刊ヤングジャンプ」誌で連載の始まった妖怪漫画では、妖怪の正体を亡霊としている。これがどうも引っかかる。もちろん「うぶめ」のように、産褥で死んだ女の亡霊が化してなるとも言い伝えられている妖怪もある。河童を水死者の霊が変化したものとみなす場合もある。
「妖怪」という語を、「怪異一般」の意味にとれば、死者の霊が生者の前に姿をあらわすという事態はそれ自体で怪しくて異常なことがらだから、その出来事を指して妖怪と言うことはできる。けれども、現代の日本語の慣用として「妖怪」と言えば、第一義には民話や伝説に登場する得体のしれない神霊・精霊を指す。この得体の知れないものから転じて、「昭和の妖怪」というような比喩になる。だから、誰それの幽霊というように、素性のはっきりしている幽霊を妖怪とは言わない。
それでは漫画のように幽霊が妖怪化したケースはないのか。上にふれたように、そのような言い伝えもあるけれども、それらはたいていの場合、余分な説明なのである。
例えば、船幽霊と呼ばれる妖怪があって、海難事故による死者の亡霊だと説明されることもあるが、これは海坊主や磯女と同じような海の精霊のなす怪異であって、これを「船幽霊」と名付けたのは、その出没の有様が幽霊のように唐突であることから連想されたのであろう。名前から直接に説明するのであれば、それは字義通り、船舶の幽霊でなければならず、水死者の霊とするのはおかしい。事実、「船幽霊」は分布に地域性のある名称であり、同じ怪異を「船魂」と呼ぶ地域もあって、こちらの方が原義に近いのだろうと思う。
上記の「うぶめ」、河童、他に天狗、座敷童子なども、亡霊が説明に持ち出される場合があるが、いずれも、余分な説明である。はなはだしい場合は、稲荷大明神を狐の霊とする場合もあるが、まことに罰当たりな発想と言わなければならない。

訂正

上記記事中、「船魂」について思い違いがありました。
詳しくはsumita-mさんのご指摘をご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101028/1288291972
私の記事の趣旨は、妖怪全般を死者の霊と説明することについての異議であったので、これは撤回いたしませんが、船魂≒船幽霊としたのは誤りでしたので、ここに訂正いたします。
まさに「余分な説明」でした。