線維肉腫

十年くらい前から右胸にあった虫さされのあとみたいなものがふくれて、小さな黒子みたいになって、それがだんだん大きくなって、五百円玉大のこぶのようになって盛り上がり、乳がんかもねなんて妻と冗談を言って笑っていた。
最近ひりひり痛むようになったのでかかりつけの内科医に相談したら、放っておくと大きくなるからとっておいた方がよいと総合病院に紹介状を書いてくれた。
総合病院の外科医に、乳がんかもと冗談を言ったら、笑ってくれなくて、本当に男の乳がんというのもあるので念のためCT検査をしましょうと言う。
笑いごとじゃなくなった。
検査の結果、脂肪の海に浮いているボールのようなもので、脂肪の塊かもしれないが、念のため切除して病理検査をするということになった。
それでこのあいだ手術をして、ミカン大の白っぽい肉塊を取り除いた。
二十五年医者をやっているが局所麻酔でこんなに大きなものを切り取ったのは自分も初めてだと医師は驚いていた。これで少しダイエットになりますかねと冗談を言ったつもりだったが、やっぱり笑ってくれなかった。
仮診断名は皮下腫瘍で、費用は国保と生保でまかなえた。妻と、安くすんでよかったよかったと言っていたのだが、先週、抜糸に行ったら、主治医が、病理検査の結果がまだ出ないと言う。顕微鏡では判断がつかず悪性の疑いがあるので、免疫なんとか検査に回ったとのこと。
そして今日、ようやく検査結果を教えてもらえた。
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)というものだった。原因不明の悪性腫瘍の一種で、めったにかかる人のいない珍病のたぐいらしい。
いわゆるガンではありませんと医師は言っていたが、あれこれ見てみると、皮膚がんの一種くらいに考えて用心した方がいいようだ。
手術自体は成功したが、再発や転移をしないか、何年か経過観察が必要とのことで、三ヶ月後に再検査してもらうことになった。
持病といえば、痛風に高血圧で、不整脈が出てドキドキしたことはあったが、がん系の病気になるとは思っていなかったので、さすがに不安である。

追記・隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)経験者のブログ

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)については、このブログがわかりやすい。
http://dfsp.exblog.jp/
正直言って、医師の説明はわかりやすいとは言えない。「がんではないが悪性腫瘍」ってどういうこと?言葉のあや?そもそも線維肉腫って何?とこちらは疑問符で頭をいっぱいにしたまま、とにかく次の検査の予約をして「お大事に」と帰される。
あとで考えれば、原因不明な上に、症例が少ないので医師としても説明のしようもなかったのだろう。
患者目線で経験を書きとめてくださる方がいるおかげで、ずいぶん気が楽になった。ありがたいことだ。
もちろん、このブロガーさんは20代女性で、こちらは50代男性だから年齢も性別も違うが、診察から手術までの流れはよく似ている。
違うのは、手術日当日、検査の時より大きくなっているのに気づいた主治医が、万一のために少し大きめに切り取りますねと言って、脂肪の海に浮かぶ患部を丸ごと切り取ってくれていたお陰で二回目の手術はしなくてもすみそうなこと。この点、私は運がいい。
とはいっても、医師が最初からがんを疑うくらい大きくなるまで放置していたのだから、むしろ再発する可能性を用心しなければならないわけだけれども。
用心と言っても、原因不明だから用心のしようがない。
経過観察に五年くらい病院通いを続けるのみだが、三カ月おきくらいらしいので、そんなに負担にもならないか。