怪談新耳袋 ノブヒロさん [DVD]

怪談新耳袋 ノブヒロさん [DVD]

DVDで視聴。
平田満の演ずる怪人物と私には一つの共通点があるので以前から興味を持っていた。
以下、ストーリーに触れるので未見の方はご注意。
実話版原作の方を読んでいないのでなんとも言えないが、劇中の主たる関係者はみな死ぬので、この劇場版映画は純然たるフィクションとして受け取るべきだろう。
ヒロイン・悦子役の内山理名の名演と平田満の怪演で見事なサスペンス・ドラマになっており、一見の価値はあった。現に私は今ちょっとした「ノブヒロさん」状態である。「悦ちゃん」とか口走りそうだ。
さて、その上で、なのだが、心霊系怪談としては少し不満も残る。
演出はきめ細かく、あまりひどい破綻(幽霊と格闘して殴られた幽霊が痛がるような)はない。
ただ、物語の大枠は、前世からの因縁にとらわれた亡者による怪異談という設定なのだが、描かれているのは結局のところ、ストーカー犯罪による恐怖と質的な違いはない。単にストーカー犯が極端に強い力を持っているだけである。ストーカーによる殺人事件や無理心中は現に起きていることなので、もちろん怖い。けれども、それは、あくまでも現実の怖さである。
だから、劇中で悦子が、死んだと思われていたノブヒロさんは実は生きていて自分につきまとっているのではないか、と思う場面があるように、この恐怖は極端に執念深い(生きた)ストーカーによっても描き出すことができるだろう。
ヒロインに心中を迫る「ノブヒロさん」が超常的な力を持つ死霊という設定なのは、そうすることで不可解な事件についての説明的場面を省略できるというメリットもあるが、なによりストーカーの執念深さを強調するためのデフォルメなのである。
そうはいっても常軌を逸したつきまといは憑霊談の常套であって、それもまた憑霊による怪異の特徴の一つであることは間違いない。だから、しょせんストーカーじゃん、といってすますわけにはいかないのだが、何かが足りない。
手足がねじ曲がっているとか、神出鬼没であるとか、四つんばいで駆け回るとか、こういう芝居のお約束はてんこ盛りであるのに、ノブヒロさんが死霊ではなく妄想に取り憑かれたストーカーにしか見えない理由というのがあるはずなのだが…(平田の演技力のせいではない)。
作り手からは、それがわかれば苦労はないサと言われそうだが、ここが肝心なところだけに気になる。