恩師

先生とわたし

先生とわたし

恩師との葛藤という著者の個人的なエピソードをもとにしているのに、現代精神史の一場面として仕上がっているのは、筆力のなせるわざか。
東大の名物教授とその優秀な教え子たちの物語なので登場人物も絢爛豪華。正直言って、若きエリートの青春群像がちょっと鼻につく感じもしたことは確かだが、師弟関係という教育の営みがなされる限りなくならないだろうテーマを掘り下げているので、地味なだけが取り柄の私大出身者である私にも興味深く読めた。
…と、言えば格好は付くが、実は、まだ若かった著者に英文講読を教わったので点が甘いのかもしれない。
確か、ワイルド『獄中記』がテキストだったように記憶している。熱血青年教師といった印象で、不勉強な学生と真剣に議論したり、試験では映画『お熱いのがお好き』を鑑賞させて論じさせてみたり、といった当時としては型破りの先生だった。
本書で描かれている師弟の緊張関係が頂点に達した時期が、我ら再履修組の落第学生の面倒を見てくださっていた時期と重なることに、なんともいえぬ感慨を抱きながら読んだ。
四方田先生、その節はお世話になりました。お元気でご活躍のご様子、陰ながら応援しています。