防音が甘い部屋

あれは、何と言っていたのだろうか? 気にかかっている。
一昨日、一泊した大阪市北区のビジネスホテルで、耳にした声なのだけれども聞き取れなかった。
昼間、駆け足で京都・大阪の得意先を回り、夕方にチェックインしてから次の仕事の打ち合わせにでかけ、その後、遅い夕食を取って、11時頃、宿に戻った。
部屋は8階のはずれだった。
防音が甘いので安い、ということだったが、大阪の街の雑踏が発するノイズが遠く聞こえるばかりで、気になるほどでもない。
テレビニュースを見ながら煙草を吸い、皮膚にベッタリ張り付いた汗を流そうと風呂に入った。
自宅では風呂桶を洗うのが面倒なのでシャワーだけのことが多いが、足首がむくんでいたので、浴槽に少し湯をためて半身浴をしてみた。湯の上に、二段腹の上半分がぷかぷか浮いているようで面白かった。
その時、大型の掃除機をかけるような音がして、その音が鳴りやんだ後、人の声がした。
もちろん、顔は見ていないけれども、声の調子から中年女性であるように思った。壁越しのはずなのだが、すぐそばにいるように聞こえる。けれども、子音が聞き取れず「…アアウオウオアエウアウア…」というようにしか聞こえない。ちょっと怒鳴っているような感じを受けた。
ホテルの掃除係の人が部屋の前の廊下にいるんだろうか、やっぱり防音が甘いんだなあ、と思ったが、深夜に掃除をするというのも変だ。
あるいは隣室の人の声が響いたのだろうか。
時折あることなので、気にせずに寝たが、寝入りがよかった割には、夜中に二度ほど目が覚めた。
疲れていたのですぐまた熟睡したけれど。
翌日、チェックアウトするときに、「防音が甘いとあったけれど静かな部屋でしたよ」と告げたら、フロントの係りの人はニッコリ笑って「昨日、あの階のお泊まりはお客様だけでしたから」と応えた。
さて、そうすると、あの声はやっぱりアレか。だとしたら何と言っていたのだろう? ちょっと気になる。