カントのアンチノミー3十二引く四は八

純粋理性批判中 (平凡社ライブラリー)』超越論的弁証論、第二章純粋理性の二律背反第一節の冒頭の一行で躓いたままでいる。ウジウジしていてもしようがないので、冒頭の一行を強引に読んでみる。
冒頭の一行とは次の文である。

ところで、これらの諸理念を一つの原理にしたがって体系的な精確さでもって数えあげうるためには、私たちは、第一には、純粋な超越論的な諸概念がそこから発現しうるのは悟性だけであるということ、また、理性はもともといかなる概念をも全然産出せず、たかだか悟性概念を、可能的経験が不可避的にこうむる諸制限から解放するだけであり、それゆえ悟性概念を、経験的なものの諸限界を越えて、しかしそれにもかかわらず経験的なものと連結せしめつつ拡張しようとこころみるということ、これらのことに注意しなければならない。(p196)

これで一行である。これが一行か? 意味がわかるかわからないかの前に、息継ぎなしに朗読できたらたいしたものだ。作文の先生に見せたら、もっと短く区切って読みやすくしましょう、と朱筆を入れられそうだ。
以下、この一行を分解してみる。

ところで、これらの諸理念を一つの原理にしたがって体系的な精確さでもって数えあげうるためには、以下のことに注意しなければならない。

「これらの諸理念」とは、こではざっくりと、二律背反が起きるような理念、としておく。

私たちは、大きく分ければ第一には、悟性と理性との違いに注意しなければならない。
具体的には以下の点である。
・純粋な超越論的な諸概念がそこから発現しうるのは悟性だけであるということ、
・理性はもともといかなる概念をも全然産出しないこと、
・理性は、たかだか悟性概念を、可能的経験が不可避的にこうむる諸制限から解放するだけであること、
・それゆえ理性は、悟性概念を、経験的なものの諸限界を越えて、しかしそれにもかかわらず経験的なものと連結せしめつつ拡張しようとこころみるということ、
以上のことに注意しなければならない。

要するに、理性と悟性の違い、理性の特徴について注意しろといっている。その内容については『純理』をさかのぼって読んで確認しなければならないが、ここでは後回し。
次の行を読んでみる。

このことが生ずるのは、理性が或る与えられた条件づけられたものに対して、条件の側において(それらの諸条件のもとで悟性はすべての現象を総合的統一に従わせるのである)、絶対的総体性を要求し、このことによってカテゴリーを超越論的理念たらしめ、かくして経験的総合を無条件的なもの(このものはけっして経験においては見いだされず、ただ理念においてのみ見いだされる)にいたるまで継続することによって、この経験的総合に絶対的な完璧さをあたえようとするからである。(p196-p197)

「このことが生ずるのは」の「このこと」とは、前の一行全体のことを指しているのか、分解した最後の部分を指しているのかよくわからないが、おそらく「理性は、悟性概念を、経験的なものの諸限界を越えて、しかしそれにもかかわらず経験的なものと連結せしめつつ拡張しようとこころみる」という部分のことを指しているのだろうと仮定して読んだ。そうすると、この二行目は、何を言っているのかわからないが、印象としては、理性というものはその性格上、出過ぎたふるまいをすることがある、と言っているように思える。理性の越権というと、感性に対して理性が抑圧的にふるまうことを言う場合もあるが、カントの場合は、悟性に対してのことであることに気をつけておこう。
三行目。

理性がこのことを要求するのは、条件づけられたものが与えられているときには、諸条件の全総計も、したがって端的に無条件的なものも与えられており、この端的に無条件的なものによってのみ条件づけられたものは可能であったのであるという原則にしたがってである。(p197)

今度の「このこと」は、前の文の「絶対的総体性を要求」であることは見当がつく(絶対的総体性を要求するということがどういうことかはわからないが)。
四行目。

それゆえ第一には、超越論的理念は、もともと無条件的なものにまで拡張されたカテゴリー以外の何ものでもなく、だから超越論的理念は、カテゴリーの項目にしたがって配列される一つの表のなかへもたらされうるということになる。(p197)

なにが「それゆえ」で、なにが「だから」なのか、さっぱりわからない。
おまけに「超越論的理念は、カテゴリーの項目にしたがって配列される一つの表のなかへもたらされうる」というのはどういうことだ?
カントのカテゴリーといえば、十二個である。これは読まなくても知っている。なぜなら学生時代に試験に出ると言われて丸暗記したからである。内容は忘れたが、カテゴリーは十二個、これは憶えている。
ところが、やはり記憶によれば、アンチノミーは四つのはずだ。12−4=8、後の八つはどこへ行ったのだ?
まるっきりわからないので、続きはまた。