「人を知らずば其の友を見よ」

先日、「人を知らずば其の友を見よ」という文句の出典を探していたら、孔子の言葉としているのをネット上で見かけた。あれ?と思ってよく調べてみると『荀子 下 (岩波文庫 青 208-2)』性悪篇だった。もちろん、ネット上でもことわざ辞典の類いではちゃんと荀子となっているのだが、孔子の言葉としている記事もずいぶん多い。念のため『論語』を読んでみたが、それらしい文句は見当たらなかった。
岩波文庫の読み下し文を引く。

伝に、其の子を知らずば其の友を視よ、其の君を知らずば其の左右を視よ、と曰う。

性悪篇の最後の段落である。荀子は、孟子性善説に対して、素質よりも環境の影響が重要なことを力説して、最後に、言い伝えにもあるじゃないかとこの言葉を引いて締めくくっている。
この「言い伝え」が実は孔子の言葉という可能性はゼロではないが、もしそうであれば荀子も「孔丘先生もこう言っておられる」と自慢げに書いただろうにそうしていない以上、その可能性は限りなくゼロに近い。
おそらく荀子は自説を展開した後に、当時よく知られていたことわざを持ち出して、ホラ世間でもこう言うでしょ?と念を押したのだと思う。だから、荀子の言葉というのも不正確で、『荀子』という書物にある言葉というべきところなのだろう。

孔子家語』

コメント欄でid:gurenekoさんに「『孔子家語』の六本第十五に孔子の発言として「不知其子視其父,不知其人視其友,不知其君視其所使,不知其地視其草木」というのがある」とご教示いただきました。
私が上の記事を書いた時点では、うっかり『孔子家語』は見ていませんでした。粗忽なことでした。
ことわざの類いは、史実ではどうだったかと同時に、誰の言葉として伝えられてきたかもとても大事なことなので、非常にありがたいご指摘をいただきました。感謝します。