続・男の乳がん【手術編】

胸のしこりが大きくなって、最悪の場合、乳がんだといけないので切除することになった。
http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20150407/1428419478
今日、手術をしてもらってきた。
体は強い方ではないが、幸い大きな病気や怪我をしたことがあまりなく、手術は生まれて初めてだし、万一の場合は入院もと言われていたので戦々兢々。何より勝手がわからない。
外来で手術するときは、所持品や衣服を入れる袋を持っていくとよいということもしらなかった。看護師さんが紙袋を貸してくれたが、よく見ると病院のものではなく、どこかのブティックの手提げ袋だったから、おそらく彼女の私物なんだろう。ありがとうございました。
前の手術が長引いているということで、少し待っていたが、待っているあいだが手持無沙汰である。本でも読もうと鞄に突っ込んであったのを取り出すと、内田樹他者と死者―ラカンによるレヴィナス (文春文庫)』。このタイトルは場所柄よくないとあわてて引っ込めた。病院に持っていく本はブックカバーをかけておくとよいと思った。
手術室というのにも生まれて初めて入った。入る前に急に尿意を催しトイレに行かせてもらった。「緊張しましたか」と尋ねられたので、「手術室ってテレビで見たことしかなかったので」と言ったら笑ってくれた。
いよいよ手術台に横たわって、あのテレビでしか見たことのない照明が点灯した。
我がブラックジャック先生が患部を触診する。検査をしたのは半月ほど前だが、そのあいだにしこりがかなり大きくなっていた。切り取られると知って、ピノコみたいに抵抗しようとしていたのかもしれない。
前回のCTスキャンの結果では、良性の腫瘍ということだったが、短期間でここまで大きくなるとは、ブラックジャック先生にも想定外だったようで驚いておられた。こうなると、やはり単なる脂肪の塊とは思えないので手術後に再検査をしますということだった。
しこりが大きいので右脇の下から右乳首の上まで、ざっくりと大きく切ることになった。私の場合は局所麻酔で、切り取るあたりをチクリチクリと何発も麻酔注射を打たれる。今回の手術で一番痛かったのはこの注射だった。
手術は一時間半もかかった。麻酔が効いてしまうと痛みはほとんど感じず、じっと寝ているだけなのでけっこう退屈した。
ブラックジャック先生は時々、経過を教えてくれる。「今、レーザーメスで焼き切っています」と説明されたので、「そう言えば豚トロを焦がしちゃった時のにおいがしますね」と軽口をたたいたらちょっと笑ってくれたが、あんまりくだらないことを言って笑わせて先生の手元が狂ったら困るのは自分の方だと気づいて、なるべくおとなしくしていた。
「痛みますか」と何度も聞いてくれるので、誰か囲碁の相手をしてくれたら気がまぎれるのにと答えようと思ったが、このお世辞が通じるかどうかわからなかったのでやめておいた。
当初の予定より大がかりになったが、縫合も無事にすんで、切除したものを見せてもらったら、大きい。ミカンほどもある。
こんな大きなものが、脂肪にくるまれて体のなかにあったのか!
本間丈太郎先生の名セリフ「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね」を思い浮かべたが、もちろん言わないでおいた。
あとで看護師さんもあんな大きなものは初めて見たと言っていた謎の肉塊は病理検査に回されることになった。ただの脂肪の塊でありますように。
フラフラしながら着替えて会計をすませた。事前に聞いておいたところでは、三万円ほどということだったが、入院もしなくてすんだので、薬代も含めて二万円でお釣りがきた。
心配しているだろうと、会社にいる妻に電話をかけたが、出ない。少しムッとする。
無事終了とだけメールしたら、すぐに折り返し電話がかかってきて、今日は自宅で静養するようにと優しい言葉が返ってきた。
手術してよかったのは、昨日まで、かかとが痛くて足を引きずっていたのだが、手術が終わったら痛みが薄れていたことである。痛み止めが効いたらしい。
(参考文献)Black Jack―The best 12stories by Osamu Tezuka (1) (秋田文庫)