楚狂接輿歌而過孔子

昨日、うろ覚えに引いた狂接輿の歌の出典は『論語』でした。

論語 (岩波文庫 青202-1)

論語 (岩波文庫 青202-1)

なにぶん突然の出来事を目にして仕事中に思わず書き付けたので典拠を確かめるすべがありませんでした。『荘子』には孔子を登場させて道家の立場から皮肉る話がいくつも出てくるので、その中の一つだったかも知れないと思って、ちょっと迷ったのです。あらためて掲げておきます。

楚の狂接輿、歌いて孔子を過ぐ、曰く、鳳よ鳳よ、何ぞ徳の衰えたる。往く者は諫むべからず、来たる者は猶お追うべし。已みなん已みなん。今の政に従う者は殆うし。孔子下りてこれと言わんと欲す。趨りてこれを辟く。これと言うことを得ず。」(岩波文庫版『論語』、p253)

接輿の歌の文句をちゃんと覚えていたのには我ながら関心ですが、私がこのエピソードを最初に知ったのは、実は『論語』を読んでではなく、諸星大二郎氏の傑作マンガ『孔子暗黒伝』の一場面でした。子ども心に強い印象を受けて覚えていたのです。だから出典は諸星大二郎孔子暗黒伝』としておけばよかったかも知れません。

孔子暗黒伝 (ジャンプスーパーコミックス)

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魯国に仕えていた孔子が権力者の堕落に失望して魯国を立ち去ったという記事の後に出てくる話なので、接輿の歌の大意は、バカな為政者に仕えてもろくなことはないぞ、頭のよいお前さんがそんなこともわからぬのか、と皮肉ったものだということは間違いないだろうと思うのですが、「往く者は諫むべからず、来たる者は猶お追うべし。」という文句は謎めいています。いつか専門家諸氏の解釈を学んでみたいものだと思います。