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伊藤比呂美の園芸エッセイ。

ミドリノオバサン

ミドリノオバサン

盆栽でもいじろうかと思って…、というのはウソ。
なんの挨拶もない本だ。「花をいうなら、ホトトギスミヤコワスレ。白いドクダミや白いジャスミン。散り散りに乱れ咲くハギ、開かない蕾のジンチョウゲ。忘れた記憶を思い出そうとしているようなガクアジサイ。季節的には順不同ですが。/そんな花が、わたしは好きです。」(「アマリリスを見まもる」より)と、唐突に園芸談義が始まる。
「園芸といいましても、わたしのやっているのは、草花をそだてて花を咲かす、ことではない。むしろわたしは緑のおばさん、室内で観葉植物をおもにそだてているのです。」(ゼラニウムを窓縁に置く)より)
この本は観葉植物についてのウンチクが語られているかというとそうではない。本書は何かを説明したり主張したりするものではない。ただただ、著者と植物のつきあいが、日常生活の断片をチラリと織り交ぜながら語られている。それだけなのだが、どういうわけだか、それが面白くてたまらない。
現在住んでいるカリフォルニアの自宅で育てている観葉植物について書いてあるだけなのに、ついつい引き込まれてしまうのは、詩人として磨き上げられた言葉の力によるのだろう。
「実は今、サトイモ科を、むちゅうでかまっています」(「サトイモ科の男を抱きしめる」より)と書き出されれば、サトイモはもはや畑に生えている里芋ではなくなる。そんな言葉の力をのほほんとしながら堪能する。