損得を超える価値

読売新聞の報道によると、安部議員は、教育基本法改正の意義について、「損得を超える価値、つまり家族を大切にする、地域のために頑張る、国に貢献することの尊さを教えるための教育改革を行いたい」と述べたそうだ。
次期総理大臣候補とも目される有力政治家がこんなバカなことを言うはずがない。
何がおかしいかというと、この政府高官の発言とされるバカ話は、教育基本法を改正することによって「損得を超える価値」が教えられる、裏返せば、現行法では「損得を超える価値」は教えられない、と考えているようだからである。
はたしてそうか。
念のため教育基本法の条文を、文部科学省のホームページで確認してみた。
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/index.htm
第一条では教育の目的を次のように定めている。

教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

まず、一読してわかることは、「損得を超える価値」を教えてはならない、どころか「真理と正義を愛し」と「損得を超える価値」が教育の目的として掲げられていることである。
また、「地域のために頑張る、国に貢献すること」についても「平和的な国家及び社会の形成者として」国民を育成することがうたわれている。
つまり、現行の教育基本法は、報道されている発言の要求をほとんど満たしており、かつ、「損得を超える価値」を教育することの障害にはならない。
したがって報道は何かの間違いだろうが、以前にも同議員が「ライブドア事件(の原因)は規制緩和と言われるが、教育が悪いからだ。教育は大事で、教育基本法改正案も出したい」と発言したと報じられていた(毎日)。
複数の報道機関が同趣旨の報道をする以上、同議員の名をかたる痴れ者がいるのかとも疑われる。なぜかというと、たとえ粗悪なブレーンが吹き込んだにしても、こんなバカバカしい話を真に受けて、しかもそれを公衆の面前でオウム返しに口にするなど、いやしくも国民の選良たる国会議員なら恥ずかしくてできないはずであろうから(期待まじりだか…)。
しかし、同議員も寄稿している同議員所属の政策集団の出版物『人づくりは国の根幹です!』には、同議員の寄稿文として「「損得」で考える今の社会を変革しよう」と題された一文が掲載されており、報道されている同議員の発言の趣旨ともほぼ一致する。困ったことである。