メモ

田辺元『歴史的現実』「五 歴史に於ける発展と建設」より。

個人は種族を媒介にしてその中に死ぬ事によつて却て生きる。その限り個人がなし得る所は種族の為に死ぬ事である。我々が何も為す事は出来ないといつて働かないのは、謙遜のやうで実は傲慢である。
(中略)
国家の中に死ぬべく入る時、豈図らんやこちらの協力が必要とされ、そこに自由の生命が復つてくる。国家即自己といった所以であります。何か個人に対立するものを外において、それに対して我意を通すことは、社会の構造から云つて出来ない事である。その意味で歴史に於ける個人は縦い名もなき人であるにせよ、種族の中に死ぬ事によって、それを人類的な意味をもった国家に高めるという働きをなすという事が出来る。