東京タワー

今日は、年齢差42歳も下の美少女とデート(父親つき)。
津波にさらわれたお友達とおそろいのカチューシャをつけて、元気いっぱいに走り回る姿が、ものすごく可愛い。あまりの可愛さに、子役専門の芸能プロダクションのスカウトマンにさらわれやしないかと心配になる。
お嬢さんは東京は初めてということだったので、東京タワーにご案内する。
姫様がアイスクリームをご所望になったので、サーティーワンのウサギさんのアイスを献上したら、喜んでもらえた。
東京タワーは、亡き旧友に二度目にふられた場所である。
大展望台から新宿方向の真下を見下ろすと、学生時代に住み込みのアルバイトをしていた古いビルが今も建っていた。彼女は、ある夜、「話したいことがある」と突然やってきた。バブル華やかなりしころ、世情にうとい私でも六本木のにぎわいは知っていたが、貧乏学生だった僕にはそんなところにでかける余裕もなく、夜景がきれいだよと言って、君を東京タワーに誘ったのだった。
あの夜、君は近況報告のようなおしゃべりをした後、急に話題を変えて「面白い男が見つかったんだよ」と楽しそうにある男性の話を始めた。しばらく聞いていた僕が、「その人と結婚することになるのかな」と尋ねると、顔を真っ赤にして「いやー、そういうことになりそうな勢いなんですねー、これが」と照れまくりながらうなずいた。
「ちゃんと話しておこうと思ってさ」「結婚式には呼べよ」「うん、ずっとあたしのことを見ててくれたからね」、帰り際にこんな会話があって、君は大きく手を振って神谷町の交差点の向こうに消えていった。25年も前のことだが、今でも昨日のことのように憶えている。
あの夜のことは、彼女のいつもの気まぐれだと思っていたが、この間、元夫氏からこんなことを教えられた。
付き合い始めてまだ間もなかった元夫氏はやきもちをやいて、彼女が僕のところへ出かけるのを止めたらしい。
その時彼女はこう言って押し切ったとか。
「大切な友達なんだ」。
こういうとき、決然と言い放つくせがあった。その表情が彷彿とする。
「ともだち」という言葉は、失恋した若い男性にとっては皮肉なニュアンスだろうが、今の私には、とてもうれしい響きがする。
私にとって東京タワーとは、こんな思い出のある場所だから、遠来の客人とその幼いお嬢さんの前で、突然号泣してしまうことになりはしないかと内心不安に感じていたが、元気いっぱいに遊ぶお嬢さんの姿を見ているうちに、なんだかこちらも元気になってきた。
この子が大学に入るころまでに、この子たちの世代に残せる仕事をしたいと思った。